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2018年6月

飯盛山の早春の候

Meshimori

厳冬期の北八ヶ岳登山が終わって、安堵した儘茫然となり、日常生活を過ごした。そうしているうちに、もう東京は春の気配になっていき、懊悩し苦悶の心境で揃えた雪山装備は、其の儘休養に入らざるを得ないようで、なんだか虚しいような気もする。単独行でも歩けそうな、未だ雪に覆われた山は無いものかと思案して、春季に発売される「青春18きっぷ」を初めて購入した。三月初旬に、八ヶ岳のような高山帯に、ひとりで入ることは出来ない。そう自分に戒めてから思いついたのが、小海線清里駅から歩く飯盛山である。標高1600mの低山だが、其の眺望は折り紙つきと云われる山である。其処に登って、八ヶ岳を眺めてこようと思う。

Meshimorimap

2018/3/4
清里駅(8:30)---ロッヂ飯盛山(9:00)---鹿柵(9:50)---飯盛山(10:35)---1643mピーク(11:05)---平沢山(11:20)---平沢峠(11:55)---鉄道最高標高地点(13:00)---野辺山駅(13:30)

中央線の下り始発電車に乗るために、ゴローの重登山靴を履いた儘、夜明け前の街を歩いていく。未明の初電に乗車して、高尾、大月駅、甲府と、間断なく接続する電車を乗り継ぐ。其の車中で、私は殆ど眠りこけていたから、三時間を掛けて到着した小淵沢駅であるが、なんだかアッと云う間に移動してきたような気がする。韮崎を過ぎて、銀嶺の鳳凰三山や甲斐駒ケ岳、そして八ヶ岳の威容が車窓に広がるのを半醒半睡で堪能した。好天を確信して出発してきたが、目指す野辺山高原方面の天候は、期待以上の晴天であった。

小海線のディーゼルカーは既にアイドリング音を立てて、何時でも出発できそうな気配だが、未だ発車時刻迄は二十分程の時間がある。其れで、地方ならではの、ホームに設置してある喫煙所で紫煙を燻らせる。続いて、階上に出来た真新しい駅舎の改札口に向かう。瀟洒に変貌した小淵沢駅改札口の、何処からか蕎麦つゆの匂いがする。此れはと思い、一旦改札口を出て、左手の壁の裏側に廻ると、立ち食い蕎麦のスタンドが在った。勿論、天麩羅蕎麦を所望する。

昔日の面影が思い出せない程にリニューアルした新駅舎は、去年の七月に出来たのだと、駅蕎麦のおばさんが教えて呉れた。駅蕎麦の麺が旨いので、普段都内で食べている立ち食い蕎麦は何なのだろと思う。充実の二十分が終わり、小海線の車中に納まる。日曜日の清里方面行きだが、車内は閑散としていた。時刻は未だ朝の八時前である。

小海線のディーゼルカーは二両編成で、定刻に発車した。野辺山の、鉄道最高標高点に向かって走るので、列車は喘ぐような音で高原を登っていく。其れで、随分遠く迄来たと云う気分になる。冬用の重登山靴を履いて、ザックにはピッケルが刺さっている。閑散とした車内状況を利用して、オーバーパンツを穿く。残雪期の八ヶ岳にでも登りそうな風情だが、目的地は家族連れがハイキングに行くような飯盛山である。一大観光地の駅である清里で下車したのは、私と、もうひとりだけであった。

Mesimori1

駅の左手に向かって歩き出し、ユースホステルの側道を下り、千ヶ滝と云う景勝地が近いようだが、其の儘大門川を渡った。清里に居るとは思えない程に閑散とした舗装路を、ひたすら歩き続ける。清里駅から登山口迄の所要時間は、およそ一時間弱だから、駅から歩いて飯盛山に登る者は少ないのかもしれない。漸く平沢の集落に入ると、ロッヂ飯盛山の手製道標が、飯盛山の登山口が近いことを伝えて呉れる。

道標に導かれ、細くなった舗道が勾配に変わってゆく。昭文社地図では、間も無く右手の尾根に登る道が分岐するように記されているが、舗道はずっと先迄登り続けて、ロッジ牧詩と云う宿泊施設で突き当たり、其処から先は谷間を縫うように山道が続いていた。積雪が十分にあるので、私は嬉嬉として、十本爪アイゼンを装着する。過剰な出で立ちになってしまったが、まあ止むを得ない。

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尾根に登る気配は全く無い儘、谷筋を歩き続けて、正面を遮る尾根が近づくと、おもむろに踏路が右に旋回するようにして、緩やかな傾斜を登っていくようになった。飯盛山から西南に延びる尾根上に到達すると、鹿柵が登山道のひと区切りを表現している。傍らに在る休憩所で荷を下ろした。登山口から此処迄、僅か三十分の道程であった。

尾根上の広場で青空を見上げる。風も無く、陽光が暖かい。心地好さに忽然となって、紫煙を燻らす。ベンチに腰掛けて、帰途に乗車する小海線の列車時刻を再確認し、逆算して現在のコースタイム状況を認識する。十分に余禄を持って歩いていることが判り、気分は更に弛緩していくようであった。

鹿柵を通過すると、明瞭な尾根上を歩いていくようになった。低山ながらも、八ヶ岳の懐に位置する山なので、積雪も十分に残っているだろうと想像していたが、徐々に潅木が低くなり、陽差しを存分に浴びて歩くようになった登山道は、泥濘の踏路となっていった。十本爪アイゼンをどうするか迷うが、勾配の先には真白になって聳える飯盛山の三角錐が、既に視界に入っている。私は路肩に積もっている雪を選んで踏みながら、徐々に高度を上げていった。

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奥秩父主脈の最西端であり、中央分水界上に在る飯盛山は、其のピーク部分にふたつの突起がある。顕著な瘤に山名が冠され、もうひとつの瘤には標高点1643mが設定されている。其のふたつのピークを仰ぐように眺める鞍部のような平坦地に到達した。右手に甲斐駒から鳳凰三山、南アルプスの延々とした連なりを眺める。振り返ると、赤岳を頂点とした八ヶ岳が、壁画のように眼前に聳えて鎮座している。

評判通りの眺望に納得し、肝心の三角錐に向かって登り始めた。パノラマ風景に囲まれた大地に、造成されたように盛り上がる飯盛山の頂上に向かって、少し硬い雪の道を一歩ずつ踏みながら、ゆっくりと登った。程無く其のてっぺんに達してみると、既に味わった筈の絶景が決定的になった。

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北方に浅間山、南東に富士山が、霞混じりの彼方に、浮かんでいる。全方位の眺望は、徐々に風景の遠近感を狂わせてきて、私は、露岩の塊りの上で、ぽつんと孤塁に取り残されたような錯覚に陥る。

遮るものの無い頂上は、やはり風が強いので、山名標柱の風下に座り込み、八ヶ岳を正面に見る恰好で、暫く休憩した。此処迄の道程で、早出のハイカーがひとり、下山して来るのと擦れ違っただけで、午前十時半の飯盛山には、誰も居ない。珈琲を飲んで紫煙を燻らせ、漸く登山の途が近づいてくるのを確認して、私は一望千里の山頂を辞することにした。

其の後、もうひとつのピークを踏み、帰途は平沢山を越えて、野辺山に向かう。中央分水界の上を歩いていると云う感興が、日本海側の景色として高原の広がりを捉えるので、なんだか景色が濃密な色を帯びているように感じる。獅子岩の在る平沢峠への下山路で、夥しい数の登山者と擦れ違う。絶景の飯森山は、やはり人気の山のようで、狭い山頂は、此れから大混雑になるのだろうと想像すると、今回のタイムスケジュールは非常に的を得ていたものであると云う自画自賛をしながら、過剰なアイゼンを繰り出して、私は快速で下山した。

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分水嶺の看板の在る平沢峠で冬山装備を解き、軽い食事を摂ってから、野辺山駅に歩いていく。宇宙観測所の傍を通る車道が最短のようだが、折角なので、鉄道最高地点を経由して歩くことにした。小海線と併行する道路の歩道は、歩く人は居ないのだろうか。除雪された車道と相反して、膝の高さ迄雪が積もっている。此の行程が、本日の最高積雪だったことになる。

無用の歩道をラッセルする徒労に辟易して、仕方が無いので車道の端を歩いた。延々と歩いていると、線路の彼方に、独立して屹立している山が美しい。野辺山駅に着いてから地図を確認すると、男山と云う山のようであった。其れで、18きっぷの利用期間のうちに、再訪してみようと云う気になった。

小海線の山を二回訪れただけで、18きっぷの元が取れてしまうな。そんなことを考えて、内心で首肯してから、自分の品性の、其の程度の低さに悄然とするが、本心なのでまあ止むを得ない。程無くやってきた小海線の小淵沢行きに乗車すると、車内は観光客で賑わっていた。八ヶ岳の見える窓側に座り、さっき歩いた積雪の歩道が流れていくのを眺める。鉄道最高点を過ぎると、ディーゼルカーの唸りが止んで、列車は軽快に清里へと、下っていった。


Mesimori6

追記

予定通りの列車で小淵沢に戻り、程無く接続する普通列車高尾行きに乗る。ゆっくりうたた寝しながら帰れるものと思われたが、次の長坂でゴルフの帰りと思しき酔客のグループが乗り込んできて大変なことになった。煩くて酒臭い車内で、甲府迄耐えることになった。行儀の悪い此のグループ、傲慢な上司と其れに阿諛追従する部下、と云う図が漫画のように判り易く、無関係なのに聞かされている方は堪らない。聞こえてくる会話から察すると、新聞社の社員のようであった。

其の儘乗車しても高尾行きなので問題ないのだが、大月でホリデー快速富士山号が間も無くやってくるというので下車したが、6両編成の特急車両は既に大混雑で、乗車するのがやっとの状況で、判断としては大失敗であった。

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