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東天狗・初めての厳冬期八ヶ岳登山(中篇)

Tengu1

渋の湯行きのバスは二台の増便になり、全乗客を着席させて、快晴の茅野駅を発車した。乗客は当然のことながら、冬期登山の装備と恰好の者ばかりである。ザックに括られたピッケルの先端が乱立している。其れは自分も同様なのだけれど、禍々しい光景に見えるので落ち着かない。縄文遺跡の尖石から県道渋の湯掘線に入り、銀嶺の八ヶ岳と、純白の蓼科山が交互に車窓に現われる。今迄は遠く眺めていただけの雪山であったが、今日は其れに登る。しかし未だ実感は湧いてこない。今日の午後から天候は悪化し、降雪となる気象予報であったが、今のところそのような兆候は全く感じられない。

Yatsugatake

2018/2/10
渋の湯---黒百合ヒュッテ---中山峠---黒百合ヒュッテ

県道が湯みち街道の名に変わり、勾配を蛇行しながらバスは雪道を着実に走行している。終点の渋の湯の標高が1800m程であるから、茅野駅から約千メートルの標高差を運んで呉れることになる。約一時間の乗車で、奥蓼科温泉郷の辺境地、渋の湯に到着した。二軒しか無い温泉宿の前に登山客が散開し、それぞれが準備を行なおうとした途端、宿のおばさんが飛び出してきて、玄関前に留まるなと喚き叫ぶので驚いた。其れで、登山者たちが蜘蛛の子を散らすようにして其の場から消え去った。

硫黄の香が漂う渋川の畔に移動して、いよいよ身支度を整える。オーバーパンツを穿き、ゴローの靴紐を締め直してからスパッツを装着した。登山詳細図の皆は着々と準備が整うが、私は動作が覚束ない。冬用手袋の裏地が本来の指先部分から外れてしまい、装着できなくなり焦った。世話人氏に直して貰い、漸く出発の列に並ぶことができた。平常心からは遠く掛け離れた気分で、指示された順位に並んだ。登山道は渋川を渡った処から、直ぐに始まった。

渋の湯から黒百合ヒュッテ迄、其れは八ヶ岳の稜線に至る行程の中でも簡便なルートであり、人気のコースである。夏山の所要時間で凡そ二時間半である。山麓から中山峠に至る長大な尾根の、標高2000mの圏内に向かって、渋の湯からの登山道は支尾根に沿って辿っていた。サブリーダーHSさんを先頭にして、登山隊は樹林帯の雪道を、粛々と登り続ける。多数の登山者が歩いているので、完全にトレースが出来上がっているから、歩行には何の支障も無い。アイゼンの必要性も余り感じることができないが、其れは軽忽な思惟なのかもしれない。

分岐を合わせる地点の道標を過ぎると、空の色がどんよりとしてきたのが、樹間から察せられるようになった。支尾根の勾配が、やや急になり、雪中行軍の隊列の間隔が乱れていく。HSさんの歩調は淡々としているが、ペースは速いようであった。今年は余り積もってないね、と云うような会話を世話人氏とMD氏が交わしている。雪化粧した潅木が周囲を覆っている登山道を見渡しても、積雪量の相対的な評価を下すことが出来ない私は、黙々と歩を進めるばかりであった。眼鏡の上に慣れないサングラスを掛けているのが気になって、時折位置を調整する。曇天だが、雪だらけの中では、サングラスを掛けている方が気分が落ち着くのが不思議であった。

パノラマコースと云う名のある尾根に合流する道標地点に到達して、多くの登山者たちが休憩していた。其れを横目に、我々は歩行を続行する。眺望の利かない樹林の中を、緩やかな勾配のトレースを歩き続けた。雪山装備の恰好で、地図を確認したり、カメラを取り出して写真を撮る余裕は、私には無かった。次第に雪が深くなり、急傾斜の踏路を終えると、視界が開けた平坦地が、黒百合平のようであった。

Tengu2

山小屋の向こうに広がる広場に、想像していた以上にたくさんのテントが設営されていた。今夜は黒百合ヒュッテに投宿するが、小屋の中に入る為にはアイゼンを外さなければならないので、取り敢えず此の儘中山峠迄歩こうと云うことになった。好天の場合は、初日に天狗岳に登頂する予定であったが、其れは既に中止の決定が下されていた。天候は予報の通りで、曇天の空に雪が舞っている。

テントサイトの中を通過して、いよいよ雪深い樹林帯に入り、間も無く強風の中山峠に到着した。東側が鋭く切れ落ちている、八ヶ岳の稜線に達した訳だが、余り其のような感興が湧いてこない。北方に足を伸ばして、眺望の開ける処迄歩く。風と霧が混淆して、何処にいるのか判らないような天候だが、此処で西天狗と、東天狗の前衛のピークが並んでいる光景を眺めることができた。東面の山麓風景が、遠くの奥秩父の山々を背景にして、広がっていた。視界の左端に、凍りついたように白い、特異な形状のテーブルマウンテンが、静かに横たわっている。あれが荒船山ですね。世話人氏が指し示した。

風はいよいよ強くなっていき、我々は黒百合ヒュッテに向けて踵を返した。初日、或いは翌日の午前中の何れかに好天に恵まれれば、天狗岳に登頂すると云う計画であった。恐らく、今日登れなかったら明日は無理だろう。スーパーあずさの車中で、HSさんが云ったことを思い出しながら、私は黒百合平への隊列に居た。悪天候は自然の摂理であるので、悄然として歩いている訳ではなかった。慣れないグループ登山、そして冬山の行程に、未だ内心が落ち着かない儘、私は積雪の樹林帯を歩いていたのだった。

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