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2017年5月

弟富士山、明ヶ指の卵水、清雲寺の枝垂桜。(前篇)

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富士山と名づける御当地の山は幾多も在るが、弟富士山と云うのは珍しい。弟とは謙虚な響きにも感じられるが、二番手を主張する頑なさのようにも聞こえる。読み方は「おとふじやま」で、山麓には勿論、浅間神社が在る。標高は386mで、秩父鉄道、武州日野駅の直ぐ南側に、寄り添うように盛り上がっている。標高290m前後の武州日野駅から眺めると、余りにも近い所為か全容は判らず、雑木林のようにしか見えない。

前回の秩父行からひと月近く経って、kz氏とふたたび再訪することになった。前回の山行の途上で見た、「明ヶ指の卵水」の道標が気になると云うkz氏。地図で確認すると、安谷川に沿って山深く入ったキャンプ場付近に、其れは在るようだが、山道を行く訳では無い。

弟富士山に登り、卵水を視察してから、尾根を二つ横断して、若御子神社の隣に在る、清雲寺の枝垂桜の見物に行こう、と云う、少々風変わりな本日の行程である。四月に入ってから雨が続き、春寒は大袈裟だが、少々冷え込んだ。四月も第二週になって、都心の桜は新緑になってしまったが、秩父の桜は未だ見頃ではないか、と云う目論見でもある。


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2017/4/13
武州日野駅(8:20)---虚空蔵岩---弟富士山(9:00)---浅間神社---明ヶ指の卵水(10:10)---事上沢左岸尾根上の新秩父線72号送電鉄塔(10:50)---事上沢左岸尾根の極細尾根往復---事上沢---事上沢右岸尾根上の新秩父線71号送電鉄塔直下伐採地(12:25)---事上沢右岸尾根---千手観音堂(14:35)---清雲寺---武州中川駅(16:20)

御花畑駅を出た秩父鉄道の電車に、小学生が数人乗車して、何処かの駅で一斉に下車していった。其れで、平日の朝なのだな、と思い返した。陽光が注いで明るい、古びた武州日野の駅前に出ると、満開の桜が立ち並んでいたので、目論見は早速成就した模様である。武州中川方面に少し戻ってから踏切を渡ると、既に弟富士山の裾を歩いている。浅間神社とは逆の方角に遊歩道が設置されていて、カタクリ自生地の標識が在る。kz氏の提案で、取り敢えず見物していくことになった。

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武州日野駅の歩廊からも確認できる、連続する赤い鳥居をくぐって、歩を進めていく。風穴稲荷の小さい社が在り、何処迄も富士山を意識させるが、風穴らしきものは見当たらない。遊歩道が下ると、左側に緩やかな斜面が広がる。北面の朝なので薄暗い片栗の自生地には、一見して何も見当たらない。もう終わっちゃったのかなあ、と嘆息気味にkz氏が呟く。其れでも、少し先に進んでいくと、萎れかけた片栗の花が散見されるようになってきた。しかし、花を愛でる感覚の無い私は、kz氏のガイドに、曖昧に頷くだけであった。

弟富士山の北側の裾を捲いて歩き、武州日野駅のプラットホームも途切れて、左手に虚空蔵大菩薩と銘打たれた社が現われる。弟富士山と云うこんもりと立っている山肌に、稲荷神や虚空蔵菩薩が、張り付くようにして祀られている。富士山の代替品である富士塚の、少し大掛かりなものだろうかと云う、弟富士山に就いての考えが、少し揺らいでくる。

其れにしても、北面の裾は余りにも薄暗い。陽の当たる線路沿いの桜を遠目に見ながら、何とも云えない燻ったような気分である。朽ち掛けた道標に、弟富士山の記載を認めて、どうやら浅間神社に戻らなくても、登山道が整備されているようだった。民家の脇を縫うようにして小径が続き、左に旋回して勾配になった。虚空蔵大菩薩の裏手に廻って、山道が続いている。丸太を模した人工のステップが、枯葉に埋もれている。勾配が上がるに連れて、徐々に北面の鬱蒼とした雰囲気が和らいでくる。其の所為か、此の周囲の斜面に咲く片栗の花は、少しだけ精気を感じさせる。

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陽の当たる尾根上に立って、漸く開放感に満ちた気分になった。雑木林は未だ枯木で、春浅い山の風景である。十数分しか歩いていないのに、麓の桜並木の風景とは一線を画しているのが、とても不思議な気がする。尾根に合流した処には石標が在り、五合目と刻まれている。一合目は何処だったんだろう。kz氏が云った。

尾根道を東に向かって歩くと、間も無く二手に別れる分岐点が在り、弟富士山と虚空蔵岩が記されている。左廻りの虚空蔵岩方面に入ると、ふたたび北面の斜面を、か細いトラバース道が刻んでいる。程無く、弟富士山北尾根とでも云うべき尾根に乗り上げると、明るい広場に小さな祠が鎮座している。其の先を北に下ると、一気に眺望が広がり、造形的な巨岩が屹立していて、其れが虚空蔵岩だった。

全く期待していなかったので、此の眺望は胸のすくような気分になった。眼下に広がる盆地に、ローカル線の鉄路が、桜花に沿って続いている。小学校の校庭が、桜に埋もれている。虚空蔵岩に凭れて、広大な秩父盆地を見下ろしながら、紫煙を燻らせる。雑木林のような、とか、富士塚の少し大袈裟なもの、などと軽視していた弟富士山に、余り莫迦にするものではないよと、嗤われているような気がした。

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尾根を引き返し、改めて弟富士山の頂上に向かって歩く。小さな祠の広場から、一分足らずで、浅間神社奥ノ院が在る頂上に達した。周囲は潅木で何も見渡すことは出来ないが、虚空蔵岩の眺めに圧倒された私は、社殿に参拝し、内心で非礼を詫びる。

其の昔、敬虔な富士信仰の徒が、此の山に氏神様を祀った。そして、六月の在る日に雪が降り積もる、と云う天変地異的な現象が起こり、以来「弟富士山」と称して神域となった、と云うのが山名の謂れであると云う。

練馬区の江古田駅から程近い浅間神社内に、江古田の富士塚、通称江古田富士が在る。突然話が江古田になってしまうが、私は学生時代に、小竹町に下宿していたことがある。銭湯に行く道すがら、浅間神社の前を通るので思い出した。改めて富士塚の江古田を調べると、此の神社の所有権を争っていた小竹町と江古田町が、夏に降雪が起こると云う天変地異に驚いて争議を中止し、共有することになったと云う伝説があることを知った。なんだか此の話、富士塚と較べる非礼を詫びた後で恐縮だが、弟富士山の話と、よく似ている。富士山信仰が、自然の計り知れない驚異、と云うような教訓が加味されて、長く敷衍してきたとすれば、伝説の類似にも頷くことが出来る。

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通例の登山道と云える、東側の浅間神社に至るコースで、下山を開始した。東北東に真直ぐ続いている尾根を下り、北面の山肌に進路を変えると、あっと云う間に、浅間神社に降り立った。虚空蔵大菩薩から登り始めて、途中でゆっくり休憩もしたが、此の間の所要時間は約40分程度であった。休まずに踏破すると、其の半分くらいで済んでしまうかもしれない。そんな山ではあったのだが、其れでも何故か、異界から帰ってきたような、時間の概念を忘れさせるような気持ちになったのは、霊山の効果であろうか。

車道に出ると、人の気配の無い農村風景である。暖かい陽が射し、微風が満開の桜を揺らせている。時刻は、朝の九時を過ぎたばかりである。此れで山は登ったね、kz氏が山行の区切りを確認して、満足気に云った。そうして、弟富士山の南側に沿った長閑な舗道を、ふたりで歩き始めた。

箱根レーダー局前から星ヶ山公園「箱根登山詳細図」踏査隊と歩く。

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湯河原駅を出発した箱根町港行きバスが、藤木川に沿った県道の坂を登っていく。奥湯河原の温泉場を過ぎると椿ラインに入り、高原バスの趣になった。標高700mを超える芦ノ湖畔に向かっている訳なので、さもありなんとは思うが、車窓は既に相模湾や伊豆の山々を見渡す絶景である。歩き出す前に広がっていく大展望に、山登りにやってきた積もりの意識が、混沌として訳が判らなくなる。

標高867m地点の表記が地形図に記載されている、箱根レーダー局前と云うバス停で、MD氏の先導する「箱根登山詳細図」踏査メンバー全員が下車した。レーダー局とは、「箱根航空路監視レーダー局」のことで、航空機の飛行状況を把握する為に、飛行路を見渡せる場所に設置されたレーダー塔が立っている。バスの車窓からの見晴らしが良いのは、至極当たり前のことなのであった。バス停からレーダー塔の立つ、標高904.8mの立沢山が、直ぐ其処に見える。舗装路が続いている山頂に、折角なので登頂したいと云う願望が内心に在るのだが、今日は「箱根登山詳細図」踏査の団体行動なので自制しなければならない。

Yugawara

2017/3/25
箱根レーダー局前バス停(10:30)---土肥大杉跡---六方ノ滝付近(11:50)---白銀林道---大石ヶ平(12:55)---白銀林道---自鑑水---星ヶ山公園---真鶴駅(18:00)

今日の行程を踏査隊に説明するMD氏が、私に向かって「本日は枝葉末節の極みでありまして」と、笑いながら云う。『明星ヶ岳・塔ノ峰「箱根登山詳細図」踏査隊と歩く。』を読んで呉れたMD氏は、枝葉末節、のフレーズが面白かったとのことで、そんなことを云っている。本日の踏査コースは、此処、箱根レーダー局前から県道を少し歩いた先に分岐する、沢沿いの登山道を下降していくことから始まり、白銀林道を歩いて星ヶ山公園に至る、と云うものである。湯河原の代表的な山である、幕山や南郷山には登らず、其れ等を縫うようにして林道を歩くだけである。枝葉末節の極み、と云う言葉には微塵の隙も無い。

行程の説明が終了して、YM、HSさんの女性ふたりと、ベテランのIH氏を含めた計五人の踏査隊が、レーダー塔に背を向けて出発した。県道は尾根の上を走っているが、程無く右手に道標が現われて、土肥大杉跡方面に進路を変えて下降していく。土肥は湯河原の山域の地名だったようで、敗走中の源頼朝が潜伏した場所が杉の大木に空いていた穴倉だと云う。巨木は既に跡形も無く、記念碑が立っているだけだが、観光名所になっている。

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登山道の木段は腐敗し、泥濘の踏路が続いていた。昭文社の登山地図には、道が荒れているので通行止め、と云う記載のある赤実線ルートである。植林に覆われている茫漠とした尾根と谷をトラバースして、踏路は夥しい倒木で不明瞭となり踏査隊は逡巡して暫し停滞した。そこで以前、沢登りで訪れたことがあると云うYMさんが、倒木に隠れた登山道を発見したので、難渋しながらなんとか進路が確定した。

出発したばかりだというのに、尾根群を掻き分けるようにして、谷筋に下山すると云う恰好になった。やがて土肥大杉沢の本流の音が聞こえてくると、漸く清涼感に満ちた登山道となり、樹間から見上げると立沢山のレーダー塔が確認できる。何度も繰り返すようで恐縮だが、下山するためにわざわざバスに乗ってやってきた、と云うような、何とも不思議な気分である。

土肥大杉沢から離れて、山肌を縫うようにして歩くと、やがて支流を渡渉する。松浦本の概念図のコピーを参照すると、此の沢沿いに遡行して行けば、六方ノ滝が在る筈であった。心細い踏み跡が、其れでも着実に分岐している。木枝には紫色のリボンが目印として括り付けられていたので、一行は登山道から沢沿いの踏路に進入していった。土肥大杉跡から此処迄、誰にも会うことが無かったが、此の踏路では、上流から下ってくるハイカーと擦れ違った。

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沢が二股に分かれる箇所に到達し、右俣に黒い壁状の滝が在った。左俣の上方を見上げると、同じような黒色の岩崖に滝が落ちている。六方ノ滝の由来である、六角柱に覆われた柱状節理の滝を期待してしまうが、其のような形状では無い。後日調べた結果、柱状節理の滝は、右俣の滝の、更に上の方に在ると云うことらしい。二股の中間部分の山肌から、見物から帰ってきたと思しき数人のハイカーが散見される。簡単には眺めることの出来ない場所に在るのは、六方ノ滝が幻の滝と呼ばれる所以なのだろう。

白銀林道に達し、林道の未計測区間、大石ヶ平迄の往復と、二手に分かれて踏査を終える。ふたたび合流してからは、全員で白銀林道を歩いていく。鬱蒼とした崩壊気味の登山道を歩き続けてきたので、林道とは云え、心地好い散歩の気分である。湯河原一帯の踏査を殆ど終え、枝葉末節の踏査は自鑑水経由の登山道から南郷山の西北の尾根に向かう。名所旧跡の風格で解説文の記された看板が立っている自鑑水は、植林帯の中に泥水が溜まったような処で、なんとも貧相なものだったので驚いた。

曖昧な尾根筋を登り詰めると、南郷山に至る道に合流した。西北の尾根は星ヶ山に続いているが、登山道は唐突に尾根を跨いでいく。星ヶ山は踏査の対象に入っていないが、周辺に在る星ヶ山公園の所在が判然としないので、登山道がクイックリターンする箇所から、微かに踏み跡のある細い道が尾根上に向かって続いているので、其処に進入していった。ハコネダケに覆われた、か細い踏路は途中で不明瞭になり、止むを得ず引き返す。結局、Uターンするように続く登山道を辿っていくと、見晴らしの良い舗装路にぶつかった。

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小高い丘の上に敷かれた舗装路から、相模湾の広がりと、真鶴半島や初島が明瞭に見渡せた。舗道は自家用車が立ち入れない区域を巡っているので、ハイキングコースとして機能しているのかもしれない。此処一帯が、星ヶ山公園なのかもしれませんね。MD氏が云った。

眺めのよい丘陵に、遊歩道が幾重にも分かれているので、ふたたび二班に分かれて踏査を続ける。私はMD氏と行動を共にすることになったのだが、合流地点である、さつきの郷に達しても別班の姿が無い。携帯電話の電波も届かないので、ふたりで探し回ることになった。踏査隊のリーダーとして、MD氏は焦燥感を漂わせている。当ても無い儘に湯河原美化センター迄下り、ふたたび友逢の丘に登り返した我々は、漸く三人の姿を発見して安堵した。細かく分岐する舗道を丹念に踏査していたと云う三人は、予想以上に遅れてやってきたと云うことであった。

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全員で車道を歩いて下山することになった。湯河原カントリー倶楽部の敷地に沿うようにして、海迄続く尾根を下っていると云う恰好である。我々の歩いている下には、東海道新幹線の南郷山隧道が通っている筈で、新幹線に乗って小田原を過ぎると、隧道を頻々に通過するのが判るが、そんな地形の場所を歩いている。段丘状の土地に住宅街が広がり、やがて東海道本線の線路に併行する県道に出て、薄暮の街を真鶴駅迄歩いた。山に登頂しない行程の一日だったが、歩行時間は七時間を越えていたのが意外だった。

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