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皇鈴山・釜山神社・釜伏山(前篇)

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土曜日の朝である。つい先程まで夜だった街の余韻が、払拭されない儘の気怠さに覆われているような雰囲気の、池袋駅西口は閑散と云うのとは少し違う、不思議な静けさを醸しだしていた。東武東上線の改札口に近い駅前の路上で、私は紫煙を燻らせている。自分がこれから山登りに行くと云うのが、とても不自然なことのように思えてくる。七時丁度の発車である、快速急行小川町行きに乗車すると、弛緩した空気の車内は、部活に勤しむ高校生と、巨大なゴルフバッグを抱えた中高年の紳士が散見される程度であった。ハイカー姿の徒は、全く見受けられない。

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2017/2/26

打出バス停(8:40)---二本木峠(10:05)---愛宕山(10:30)---皇鈴山(11:00)---登谷山(12:10)---釜伏峠---釜山神社---釜伏山(14:15)---日本水---塞神峠---仙元峠---植平峠---金ヶ嶽(15:50)---野上駅(16:40)

数年前に観た、NHKのETV特集「見狼記 ~神獣ニホンオオカミ~」の印象は鮮烈だった。秩父山中で遭遇した謎の野生動物は、絶滅した筈のニホンオオカミではなかったか。其れを証明する為、狼発見に奔走する人物が主軸となったドキュメント番組であった。尤も、ニホンオオカミは生存するのか、と云うような、謎めいたことに、興味を持った訳では無い。

秩父三峯神社を筆頭に、御眷属、神の使いとして信仰の対象となっている「お犬様」は、ニホンオオカミのことであると云う。番組の中で、埼玉県の住宅街に在る、村落の時代から続く数世帯の集落で行なわれている「お犬様」への供物を捧げる「御炊き上げ」の場面があった。共同体の人々の中からは、時代に合わないからやめようか、と云う提案もあったが、「やめたらどんなことが起こるか判らないから」と云う理由で継続されていると云う。

人間には計り知れない、自然の恐ろしさ。東日本大震災で圧倒された、そんな畏怖の境地は、時間の経過とともに、ふたたび忘却されつつあるように感じられる。私が惹かれるのは現世利益とは程遠い、畏怖の念で信仰されるオオカミと云う御眷属の神聖さ、崇高さである。オオカミ信仰の精神性は、日々を無為に生きる自分に対する戒めのようにも思える。

そんな思いを馳せつつ、番組の中で、クローズアップされた場所のひとつである、オオカミ信仰の聖地、釜山神社を、ずっと訪れてみたいと思っていたが、今日迄実行することが無かった。

北武蔵と称されるエリアは、都心から行こうとすると随分遠い。周辺を巡る公共交通機関は、秩父鉄道とJR八高線であり、いずれも都心に直結しない路線である。小川町、寄居に向かう東武東上線を利用することになるが、登山、ハイキングの為に池袋から乗車すると云う発想が、先ず浮かんでこなかった。

更に、目的の釜山神社と、宮司が毎月敢行している儀式「御炊き上げ」の舞台であると云う、奥ノ院が在る釜伏山は、何れの駅からも歩いて行くには随分遠い。勿論、歩くのが嫌だと云うことでは無く、其処に至る迄の歩行ルートを検討すれば、如何様にも計画は出来る筈であった。しかし、山登りの為に東上線に乗ると云う発想が無かった為に、釜山神社に行くと云う発想も、出てこなかったのである。いつか、誰かと自動車に乗って訪れることもあるんじゃないか。そんな茫漠とした思惟の儘になって、其の儘になっていると云うことである。

釜伏山を目的地にすると、寄居駅からの車道歩きはコースタイムで三時間掛かる。此れは論外である。秩父鉄道に乗り換えて波久礼、野上の両駅から歩くと云うことも考え得るが、余り食指が動かない。小川町や寄居くんだりまで来て、更にローカル私鉄に乗り換えると云うのが、億劫と云うよりも、其の遠さが想像されてきて、面倒になる。其処迄手間を掛けて行った先に在るのは、せいぜい標高が500mくらいの山々であるから、気持ちが高揚してこない。

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長期の休暇中であると云うkz氏と、久しぶりに山歩きをすることになった。何処かに行きましょうと云うお誘いを掛けてから、何処に行くのかを考えると云う順序である。暫く思案してから、釜山神社のことを思い出した。いいですよ、行きましょう。kz氏の簡便な返事は、行程を任せると云う意味なので、私は具体的なコースを考えることになる。北武蔵迄行くのは億劫。そんな気持ちが、kzを誘うことにより、兎に角行くのだと云う意思に転化していった。東上線で小川町迄行き、其処からバスに乗って、一旦北武蔵エリアを南下し、釜山神社を目指して北上していく。そんな行程を選ぶことにした。

閑散とした車内に、陽光が差し込んで暖かい。都幾川を渡る鉄橋の音で目を覚ますと、車窓に山並みが遠望された。東松山に到着する頃合なので、随分眠ったようである。快速急行は此処から各駅停車となり、丁度一時間を掛けて小川町に到着した。新宿から青梅や上野原に行く所要時間と同じであるのに、随分遠く感じる。駅前に出ると、早めに到着していたと思しきkz氏が居て、バスはもう来てるよ、と云った。

小型車両のイーグルバスに乗ると、間も無く発車した。廃れた往年の商業地の街並みを抜けて、山里を淡々と走るバスが東秩父村に入った。内手(打手)と記されたバス停で下車する。車道の向こうに田畑が広がっている。其の向こうに見える里山に向かって、農道を歩き始める。釜山神社に至る行程は、「外秩父七峰縦走ハイキングコース」の途上にある、二本木峠を目指して登っていくことになった。外秩父七峰を踏破する行程はフルマラソンと同じような距離であると云う。二本木峠は、其の終盤に掛かるような地点である。

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蛇行する車道をショートカットして、畑地の脇に設えられた道を歩いていく。kz氏が立ち止まり、おお、福寿草の群落、と云った。路傍に咲く小さな黄色い花は、花弁が開いたものやそうでないものなどが雑然と並んでいた。車道と離れたり出会ったりが繰り返されて、漸く植林帯の山道になる。面白味の無い登りが続いたが、顕著な尾根が合流してくる辺りで、自然林の枯木が周囲を支配するようになった。登山道の尾根が明るくなり、踏路は勾配を緩やかに蛇行しながら続いている。

雑木林の尾根の右側に登山道が沿っていくようになり、やがて拓かれた草地が現われる。昔は牧場だったんじゃないかな。kz氏が云った。遠くに微かな物音がする。車道が近くなってきているようである。牧場跡を過ぎて、尾根を跨いでトラバースしていくと、電波塔が唐突に現われる。車道が交差する地点が、二本木峠だった。

実家が東武東上線の沿線に在ると云うkz氏は、山登りを始めた頃、頻繁に北武蔵周辺の山を訪れたと云うことである。二本木峠は、無為にやってきた自家用車連中が行き交うような処で、彼にとっては食傷気味の山行になってしまったかなと内心で気を揉むが、此処迄来てしまってからではどうしようもない。山躑躅が綺麗だと二本木峠の看板には記してあるが、冬枯れの季節には関係が無い。此れから登る、三角点の愛宕山から、山稜となって連なる皇鈴(みすず)山、登谷(とや)山に向かうが、概念図を見ての通り、県道361号が尾根上を併行して走っているような山々である。私の目的である釜山神社の方角に連なっている、都合の良い尾根なのだが、こんな車道混じりの山道に、つき合わせてしまって悪いな、などと思いながら、ふたりで整備された木段を登っていった。

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程無く標高654.8mの愛宕山に登頂した。三角点と、関東ふれあいの道の石標が在るだけの狭い山頂であった。冬木立のおかげで、なんとか鞘越しに遠くの山々が望まれるが、明瞭ではない。ザックも下ろさずに、我々は北に向かって遊歩道のようなコースを下っていった。

鞍部を二本杉峠からの車道が貫いており、東秩父村と皆野町の境界になっていた。車の往来は殆ど無い静かな峠で、其の代わりに、サイクリングの徒が、喘ぎながら登ってくる。其れを見送ってから車道を跨いで、皇鈴山への登りになる。緩やかに続く尾根は、其れ程整地されている風でも無く、自然林が立ち並び、笹が足元に茂る道が続いていた。

殆ど期待していなかった山域なので、皇鈴山の頂上広場に到達して、其の眺望には驚いた。秩父市街を遮るようにして、蓑山が模型のように、こんもりと盛り上がっている。其の彼方に、久しぶりに眺める、両神山の鋸歯状の佇まいが美しい。奥武蔵の山々をkz氏と一緒に登った数年前を思い出しながら、私は紫煙を燻らせて奥秩父の遠望を堪能した。

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此処で少し早い昼食を摂った。次の登谷山迄のコースタイムが一時間程になっているが、実情は三十分の大休憩を含んでいる。人の声が向こうから聞こえるので、其の方角に歩いていく。皇鈴山の東側は、林道の終点となっている広場が在り、関東平野を見渡す展望所になっていた。遮るものの無い山頂広場には、アマチュア無線の徒が幾人も腰を据えて、何やら交信している。折角の展望が、其れで台無しになり、我々は早々に其の場を立ち去った。



付記


外秩父七峰縦走ハイキングコース


晴れのち山…時々妄想…「金ヶ嶽」

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