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2016年7月

荒船山・上信電鉄・しもにたバス(後篇)

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南北に長い軍艦山、其の甲板の上を辿る小径を、気の無い足取りで進んでいく。荒船山の最高峰、経塚山を往復してくるのは予定の中に入っているが、其れだけでは時間が余ってしまう。テントの設置作業は、人が消え失せるであろう、午後四時台くらいから始めたい。其れ迄の三時間強を、どうやって過ごすかと思案しつつ、登山道から外れた草原の中で、摂り損ねた昼食を兼ねて休憩にした。経塚山を越えて南下した処に在る奇峰、立岩に行ってくるのは少し遠すぎる。窮余の策で、西に延びる尾根の途上、御岳山迄の往復に決めた。其の先に連なる、ローソク岩を越えて、兜岩山迄、往復してみるのも可能な時間帯ではあったが、地図上に記されている、ナイフリッジ、の文字が怖いので自重する。西上州の登山恐怖症を克服するために、此処迄やってきたので、其れも止むを得ない。


Arafune_b

2016/5/14

三ツ瀬バス停(10:00)---相沢登山口(10:35)---中ノ宮(11:45)---艫岩展望台(13:00)---星尾峠(14:25)---御岳山(14:50)---星尾峠---経塚山(15:55)---艫岩展望台(16:40)

2016/5/15

艫岩展望台(7:00)---中ノ宮---相沢登山口(9:00)---三ツ瀬バス停(9:45)

草地の木陰にザックを隠し、軽装になって登山道に復帰した。周囲の風景は、山頂部に居るとは思えないような穏やかなもので、此の森林公園の淵に断崖が在るとは、到底想像できない。時間を積極的に消費するかのように、私はのんびりと歩いている。そうしていたら、背後から嬌声とともに団体が追い着いてきた。艫岩展望台で絶叫していたツアーガイドを先頭に、二十人くらい居る団体を、路肩に寄って退避してやり過ごす。最後尾の、迷子を捜していた女性は、疲れた笑顔で私に挨拶をした。私も、旅行会社の添乗員と云うのをやったことがあるので、其の気苦労は解る。其れにしても、団体を忌避して艫岩から移動してきたのに、また一緒になってしまった。ふたたび団体に追い着かないように、分岐点迄ゆるゆると歩きながら、私は、経塚山を後回しにして、先に星尾峠へと下りていくことにした。

朽ちかけた木段を下り、右手にカーブしながら、尾根の腹をトラバースしていく。其れが随所に細くなっているので少々の緊張を強いられる。艫岩で、内山峠からの登山道が、木橋の破損により通行止めになっていることを知った。行楽気分の団体も含めて、大多数の登山者は、荒船不動から歩いて来ている筈で、此のトラバース道を通過しなければならないから大丈夫かと思う。心細い捲き道が終わって、尾根を越えていく箇所が星尾峠だった。長野県佐久市製の標柱が立っている。私はメインルートから外れて尾根の上に乗り、西に向かって歩き出した。細い尾根に、自然林が疎らに並んでいる。新緑の向こうに、目指すピークが聳えている。時折現われる赤八汐の紫色が鮮やかで、はっとして立ち止まる。

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眼前のピークが近づいて、久しぶりの勾配を登る。其れを越えて、ふたたび鞍部へと下り、気持ちのよい木洩れ陽の中を歩くと、やがて荒船不動への分岐点に到達した。誰も居ない細尾根は心地好かったが、此処から御岳山の小ピーク圏に向かって急激に登る。ロープが設置してある直下を越えて、頂上に立った。古びた道標に、御岳山園地迄百メートルと記してある。疎らな樹林の向こうに、兜岩山方面の眺望が窺える。続いていく尾根上の鋭利なピークの上に、巨大な墓石のようなものが刺さっている。大ローソクの不気味な容姿を眺めていると、もっと間近で見てみたい誘惑に駆られるが、私はかぶりを振って、御岳山の方向に歩き出す。呆気なく到達したピークに鎮座する、青銅の神官像は妙に真新しく見えて、風情は感じられない。樹林に囲まれた山頂からの眺望は無く、こんなものかと思いながら、時間を消費するために、私は紫煙を燻らせて、茫然と休憩を取った。

星尾峠に向かって、来た道を戻る。時刻は午後三時を過ぎているが、太陽は未だ中天にあるかのように高い。誰も居ない細尾根から、立岩が樹間に見え隠れするのを眺める。正面に、荒船山の茫洋と長い山頂を見上げながら歩いていく。荒船不動からのメインルートに合流しても、人の気配は無い。ふたたび山頂部に乗り上げてから、経塚山への砂礫混じりの傾斜を登る。しめ縄の結界の向こうに祠が在る経塚山の頂からは、明瞭にローソク岩の連なる尾根を見下ろすことが出来た。西上州の奇岩を遠目に眺めて、改めて、異郷に来た、と云う感懐が満ちてくる。

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時刻は午後四時を廻っている。もう大丈夫だと思うが、念の為に経塚山でもゆっくりと時間を潰した。陽光の色が、心なしか赤みを帯びてくるように感じられた頃、私はふたたび、テーブルマウンテンの上を縦断する為に出発した。雑木林の真ん中を貫いている歩道を、銜え煙草で歩いた。「皇朝最古修武之地」の石碑を通過する頃、軽快なトレラン姿の若い男性と擦れ違う。未だ居たか、と、案外の気持ちであるが、当然のことながら怪訝の思いは彼の方が強い筈である。どちらから、の問いに、艫岩でテントですよ、と応える。トレラン氏は驚いた顔で、其れは勇気があるなあ、と云った。艫岩でテントと云っても、絶壁の淵にテントを張る訳では無い。其れはお互い判っている筈なのだが、荒船山の絶壁でテント、の言葉は、異化の効果を作用させる。

クレッタルムーセンを回収して、陽が傾いて薄暗くなった樹林帯を歩く。程無く避難小屋が現われて、艫岩に戻ってきた。無人の絶壁の上に立って、やれやれと云う気持ちで荷を下ろした。荒船山の北方に広がる風景。青々とした山並みの構成がジオラマのように見渡せる。彼方に聳える明瞭なピークには、電波塔が立っているから、物見山である。下仁田トンネルと内山トンネルの間を繋ぐ国道254が、地図と同様に激しく蛇行しているのが判る。其の左上に在る眼前のピークが、標高1234.0と云う並びのよい熊倉峰で、昭文社登山地図にも「特異標高数字の山」と記されている。

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テントを設営して、持参した缶麦酒を飲んで、漸く気分が弛緩してきた。陽光が黄昏の色を帯び始めて、霞んでいた物見山の向こうから、浅間山の巨大な山容が現われた。其れで、此のジオラマが低山の塊りであったことに気付くのだった。絶壁の淵に近づいて、遠い雲の中に落ちていく夕陽を眺める。少し、躊躇してから、崖の下を覗きこんだ。断崖の下には、黒い森が広がるばかりであった。息を殺して覗き込んでいた私は、顔を上げてから、深呼吸をした。

荒船山の夜が、ゆっくりと訪れた。スキットルのウヰスキーを舐めながら読書をして、程無く眠りについた。深夜に目覚め、テントから這い出る。艫岩からの夜景は、西北の彼方に、佐久の灯りが微かに窺えるだけであった。暫く佇んでいると、たなびく雲間から、赤い月が現われた。超現実的な光景が唐突に出現したような気がして、息を呑んだ。黒い雲が流れてきて、赤い月は、混濁したような色彩になって、徐々に姿を消していった。艫岩展望台は、ふたたび静かな闇に包まれた。私は、無意識を制御するために、紫煙を深く、吸い込んだ。


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追記

遠慮がちな鳥の声、荒船山の朝は霧に包まれていた。早々に撤収を終えて、木製ベンチで朝食を摂ってから、下山の徒に就く。しもにたバスの本数が限られているので、相変わらず時間調整をしながらゆっくりと歩く。三ツ瀬バス停のベンチでサンダル履きになって、荒船の湯迄歩いていく。民家の軒先の老婆ふたり組に摑まって談笑に付き合う。おばあさんたちは、しもにたバスの存在を知らなかった。バスの時刻迄、荒船の湯でサウナに入りつつ長湯をする。帰途の下仁田駅行きの客は、私ひとりだった。

昼下がりの下仁田駅周辺を見物して、何か食べようと、店構えの古風な「きよしや食堂」に入ったら超満員で、店員も居ないで主人ひとりが仕切っていて、使用済みのどんぶりが積み上げられている。危険信号が脳裏に点灯してふたたび町に出て店を探す。奥まった処に在る「食亭エイト」に入り、名物だというカツ丼を食す。下仁田カツ丼は煮カツではなく、トンカツを醤油ダレに浸したものが丼に乗っていると云う代物だった。驚いたのは、トンカツが二枚分、短冊状に切って乗っていたということで、麦酒のつまみに一枚、カツ丼で一枚と云う配分で食す。余程空腹で臨まないと食べきれないボリュームだった。下仁田カツ丼は他の店でも二枚乗っているのかと主人に訊くと、判らないけどウチは昔から二枚、と云った。満腹、満悦で上信電鉄に乗ったら直ぐに熟睡してしまい。終点の高崎です、と乗務員に起こされた。

別記

2016/5/21

田貫湖キャンプ場(9:15)---休暇村富士(9:30)---休暇村分岐(10:10)---長者ヶ岳(11:20)---田貫湖キャンプ場(12:50)

友人M,N,Tと四人で朝霧高原でオートキャンプ。天子山塊の長者ヶ岳に登る。休暇村分岐は眺望がよいので、此処迄を登る家族連れや児童の団体と遭遇する。東海自然歩道と銘打たれてある尾根は緩やかで、頂上直下も其れ程の傾斜は無い。頂上は富士山方面のみ伐採してあり眺望がある。パラグライダーが上空を舞っていて、眼前に現われたりするので落ち着かない。

2016/6/2

登山詳細図甲斐郡内/東編の踏査

鳥沢駅---小篠貯水池---石仏分岐---穴路峠直前から尾根直登---倉岳山---立野峠---月尾根沢---梁川駅

「登山詳細図」の続編は、上野原から笹子辺り迄の中央本線沿線。其れを東西に分けて出版の予定と決まったようで、奥武蔵、奥多摩、丹沢に繋げて詳細地図が完成することになる。個人的にはお馴染みの、倉岳山周辺の踏査に同行させて戴いた。

登山詳細図世話人の日記
http://mordred1114.blog.fc2.com/blog-entry-289.html

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