« 日光男体山 | トップページ | 日光白根山(中篇) »

日光白根山(前篇)

修験道の険しい山道を攀じ登った男体山。其の労苦が染み入るように、疲労感が全身を覆った日光の思い出からひと月が経って、また性懲りも無く友人の的異君と早朝の中禅寺湖畔にやってきた。今度はさらに高度を上げて、目的は日光白根山である。私を登山の虜にさせてくれたそもそものきっかけは、此の友人が山に誘って呉れたことであった。しかし、健脚だった友人も、自家用車を買って乗り回しているうちに、すっかり堕落の一途を辿っていて、また日光へ行こうかと誘う彼の口ぶりには、高原をドライブして温泉に浸かればまあよろしいと、そんな本心が透けて見えるようでもある。そんな彼に私は、日本百名山の白根山に登るためには、此の車で移動するのが好都合である、と云うような、微妙に友人の愛車を持ち上げてご機嫌を伺うような提言をする。白根山の登り口には湯元温泉があり、キャンプ場と日帰り温泉施設があるから、百名山のひとつを制覇してから温泉に浸かり、麦酒で乾杯しようではないか。友人は上機嫌で快諾した。

0


2015/7/11

日光湯元キャンプ場(6:30)---外山鞍部 (8:40)---前白根山 (10:00)---五色沼避難小屋 (10:50)---奥白根山 (12:20)---五色沼避難小屋 ---五色沼---五色山 (15:00)---国境平---中ツ曽根---湯元温泉(18:00)

Photo

私の本心としては、山に登るのに自家用車があろうがなかろうが、其れは然程重要なことではないと云う思惟がある。日光湯元温泉は麓の日光駅からバスで移動できる位置にある。友人をおだてて車を出させるのは、私の奸佞によるものではなく、必要以上に車で出掛けたがる友人への優しさと云っても過言ではないと思っている。しかし、自家用車の利点も当然ながら在って、早朝に湯元温泉へ到着できるおかげで、前白根から奥白根、そして五色山を経由するラウンド・トリップが日帰りで可能になる。我々は早朝の戦場ヶ原を軽快に飛ばして、湯ノ湖へと向かった。湯元温泉街の端に、スキー場のゲレンデがあり、隅の一角に在るキャンプ場に隣接した駐車場に到着した。避暑の季節の週末だが、テントの数は其れ程でもない。

日光白根山は、単独の山塊の名称ではないが、日光火山群の広がる一帯に突き出た溶岩ドームである奥白根山を指すのが通常である。火山群に分け入り、尾根を辿り、火口に下がってふたたび登り返すと云う行程が窺えるから、登山地図のコースタイムに依拠するのは危険である。私は内心で、かなりのロングコースになることが明白な儘、歩き過ぎると足裏の痛みを訴えて不機嫌になる友人には其の見通しを語らない。無用に不安がらせるのも気の毒であるし、其れなら単純に同じ道を往復しようと云われても困るからである。

1

快晴に近い青空の下、延々と続くゲレンデを登り続ける。時折振り返ると、男体山の円錐が次第に独立的な姿を鮮明にしていく。日光を空の上から俯瞰して眺めて、白根山と男体山の巨峰と、噴火によって出現した中禅寺湖が点在していると云う図を想像しながら、未だ見ぬ奥白根に向かって、衝立のように聳える尾根に向かって、歩いている。リフトの支柱が終わって、草の道に砂利の通路が奥へと導いている。直射日光の射す炎天下の登路に飽きてきた頃、五色沢と白根沢の二俣に辿り着いた。

此処で改めて前白根の道標が現われ、登山道は堰堤を横目に、白根沢右岸に沿って勾配を上げていった。支尾根に無理矢理登る恰好でジグザグの道が続き、傾斜は其の儘落ち着かないで、ひたすらに登り続ける。登路は深く抉れた湿り気のある土で、樹林の所為で日陰になったはいいが、厳しい道程であった。無言の儘に尾根を進むと、漸く休憩できそうな坂路の切り返し地点に着いた。尾根の落ちていく先に、延々と歩き続けたゲレンデの緑が広がっている。後続の登山者たちの声が聞こえてきた。我々は追い越して貰う為もあり、少し長い休憩を取った。

2

白根火山群の東端は外山と呼ばれるピークで、我々の歩いている登山道は、外山から前白根に続く山稜に在る鞍部を目指して辿っている。白根沢は狭い山峡の底に在り、陽が当たらない斜面には雪渓も残っていた。出発して早くも二時間が経過して、相変わらずの視界が利かない急登を続け、茫然としながら脚を繰り出しているうちに、漸く外山の鞍部に到達した。山稜の反対側が開けていて、霞んだ晴天の遠景の遥か遠くに、不自然な黒い突起が雲に浮かんでいると思ったら、富士山であった。

稜線に乗る迄が長いと云うことは承知で歩き続けたから、此処迄やってきたことで非常な開放感を覚えている。暫く休憩していると、ふたたび後続の声が聞こえてきた。精悍な風体の一団が現われて、尋常ではない荷物を肩で支えている。挨拶を交わして、何を運んでいるのかと聞いたら、新しい道標であった。地元の山岳会による、朽ちた道標の交換作業の行軍なのであった。頑強そうに見える木材はさぞかし重いだろうと思い、そう云うと、持ってみるかと云われたので試しに担がせて貰った。

最初、思ったほどの、肩にずしりとくるような重みは感じなかった。じわじわ効いて来るんだよな、と云って山岳会氏が笑った。其の儘暫く担いでうろうろと歩き回ってみると、徐々に上体を鈍い疲労感が染みてくるような気がした。其れで、此れはたいへんな奉仕活動であるなと思い直した。鞍部から南面に広がる風景を山岳会氏が解説して呉れて、日光連山の魅力を訥々と語った。的異君が、頻りに相槌を打って首肯している。

3

稜線に乗ってからの登山道は、自然林の薄緑色が陽光に映える快適さだった。少しの勾配を登って到達した天狗平で、また休憩を取った。標高2000mを越えて、前白根の北東の尾根をゆっくりと登る。尾根が分岐する小ピークに達して、初めて奥白根山の全容を中心とした眺望が一気に広がった。其れは、奥日光の背後に衝立のように広がる山塊に登り詰めることで、初めて眺めることのできる光景であった。我々は、ジオラマの中を歩いているような気分で、前白根のピークへと、歩いていった。

« 日光男体山 | トップページ | 日光白根山(中篇) »

日光」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1243257/61971814

この記事へのトラックバック一覧です: 日光白根山(前篇):

« 日光男体山 | トップページ | 日光白根山(中篇) »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

today

  • one day

twitter

  • naname's twitter
無料ブログはココログ

最近のトラックバック