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大浪池から韓国岳・新燃岳の遠望。

Kirishima_shinmoe


新燃岳大噴火で暫く休業していたと云う秘湯、新湯温泉の一軒宿は、其のあまりの秘境ぶり故か、却って日帰り入浴の客で賑わっていたのだが、夕餉を終えた頃には静寂さが戻った。硫黄泉が濃厚なので、入浴は十五分以内にすべしの旨と、浴場には三十分以上留まることを禁ずると云う貼紙が至る処に貼ってある。硫化水素中毒で死者が出たと云う話は有名なので、やや動揺しながら、そして時計の針を気にしながら入浴した。日帰り客は短時間での入浴で終了しなければならないが、宿泊客はインターバルを置いて何度でも入湯できる。だから新湯温泉は日帰り入浴では勿体無い。宿泊するに限る。


Shinyushinmoe

2014/7/28

大浪池登山口(9:00)-----大浪池-----韓国岳-----えびの高原(12:15)

霧島滞在最終日の朝だが、移動手段は相変わらずの連山周遊バスだから、慌てる必要が無い。前回風雨の韓国岳に登った時と同じバスに、途中の新湯温泉入口から乗車すればよい。発着は8時45分だから、山行にしては遅すぎる出発のようにも思えるが、止むを得ない。朝風呂に入り、朝食をゆっくり食べてからまた入湯して、のんびりと身支度をしてから出発した。

新湯からえびの高原迄の県道を、既に三往復もしているので、此れで七度目の道中だが、今日はふたつ目のバス停、大浪池登山口で下車する。大浪池(おおなみのいけ)を経由して韓国岳に登り、えびの高原に下りると云う算段である。前回帰途に利用した、えびの高原を13時に発車するバスに間に合いそうだが、大浪池の距離感が判らないので、其れは成り行きに任せることにする。昨日と同じ16時のバスに乗っても、夕刻の飛行機には充分に間に合う計算である。漸く好天の韓国岳に登ることができる。涼しい朝の気配が残る静かな登山口から、私は石畳の道を、ゆっくりと歩き出した。


Shinyu

大浪池は山頂火口湖の名前で、勿論活火山である。山容も独立しているし、火口の直径は1000mと云う壮大さで、火口淵の東南に在る三角点の標高は1411.4mと云うから、立派な山名を冠したら、随分有名になるのではと思うが、現在迄大浪池と云う、一見山岳とは判別し難い名前に甘んじている儘である。其の、通称大浪池火山の南西の山裾を、遊歩道のように整備された石畳が、左へと捲いていくように続いている。途中、軽装の男女や、親子連れが下ってくるのと擦れ違った。火口湖を望む大浪池休憩所迄は、難なく登れる道のようであった。

標高1200mの手前で大きく切り返した登山道を、休むことなく登り続けて、呆気なく大浪池休憩所に到達した。コンクリートの建物は閉塞感が在り居心地が悪そうだが、噴火防災時の為の頑強さを考えると納得できる。木道が溶岩帯に設置されていて、ベンチやテーブルが随所に在る。火口湖を望むと、其の向こうに、さらに雄大な山容が聳えていた。昨日から韓国岳を、いろんな角度から眺めているような気がする。

此処から韓国岳に向かう分岐の在る避難小屋迄、火口湖の淵を辿る訳だが、時計廻りでも其の逆でも所要時間は然程変わらない。私は、無意識に反時計廻りの道を選んだ。三角点を経由するのが本筋だと考えた訳だが、時計廻りの方が火口に近い踏路のようにも見えるから、どちらの道がよいかは断言できない。

溶岩帯が樹林に覆われて、暫く池の見えない外側を歩くが、やがて坂路が急になって、陽射しが照りつける岩場に出ると、先程よりも高い処から、火口湖の全容を眺められる場所に立った。彼方に広がる筈の山々は、相変わらず靄靄とした空気の向こうに並んでいる。其れが、大浪池の湖面がひと際鮮やかな濃紺色をしているのに効果を上げている。陽光が真上から降り注ぐ、陰影の無い景色だが、此の規格外の火口湖には、其れも相応しいような気がした。


Onaminoike2

三角点を確認できない儘、火口の絶景を眺めて歩いていたが、次第に踏跡は樹林帯の中に入り、対向のハイカーと擦れ違うようになった。火口の外側の山腹を捲くようにして徐々に傾斜が下り加減になって、感覚としては随分歩いたような気分で、韓国岳避難小屋に到達した。通過するハイカーの姿が無い、静かな分岐点で暫く休憩し、気を取り直すようにして、いよいよ韓国岳に向かう。

大浪池火山と韓国岳の鞍部は広大な森で、繫茂した植物に囲まれた泥濘気味の道を暫く歩く。ふたたび勾配が近づいてきても、其の鬱蒼とした雰囲気は変わらなかった。腐食した木段を慎重に踏んで、不快な気分の儘、登り続けた。霧島連山の、よく整備された登山道に慣れきってしまっていたので、此の状況は想定外であった。喘ぐように、無意識になって脚を繰り出していたら、頭上に明るさが増してきた。足元の土が乾いた褐色を帯びてきたなと思ったら、唐突に山腹の、眺望が広がる砂礫の道になった。振り返ると大浪池の全貌が見えたから、もぐらが一旦地中に入って移動して、何処かに這い出てきたような気持ちになった。歩いてきた鞍部が、樹海のように広がっているのが見渡せた。


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御椀を逆さにして、高台に紺碧の水が浸されている。そんな、絵に描いたような円錐状の大浪池火山を眺めて、左手を見ると、新燃岳の歪んだ山容が、靄が掛かったような曖昧さで浮かんでいる。昨晩、新湯温泉の林道から眺めた、黄昏に映る影絵のようだった山容を、同じ高みから眺めている。溶岩で埋まった火口は未だ見えない。韓国岳に登頂したら見えるのだろうか。そんなことを考えながら、森林限界を越えて、茫漠とした山腹を登り続けた。陽射しが容赦なく照りつける登りは疲弊するが、泥濘の樹海よりは我慢できる。山頂から下ってくる人が増えてきた。此れは、えびの高原からの道よりも景色がいいねえ、単独行の壮年男性が擦れ違いざまに云った。此の先は泥濘ですが、とは云わないでおいた。

砂礫の丘に、道標が立っていた。見覚えのある、山頂へ、と云う文字を確認して見上げると、韓国岳の山名標がぽつんと立っているのが見える。岩塊の合間をひと登りで、標高1700.1m、二度目の韓国岳山頂に到達した。風雨の前回では見えなかった巨大な火口の底が、明瞭に広がっている。鋸歯状の火口淵の壁に囲まれ、砂礫と点在する緑が、造成したかのように構成されている。其れを客観視すると、西部劇の舞台が箱庭になったようにも見える。ちっぽけな人間の視野では、其のスケールを実感できないばかりか、遠近感も曖昧になってしまう。そんな光景だった。


Bakuretsu

新燃岳はと云えば、相変わらず靄の向こうに居るような感じで、連なりの彼方に聳えていた。端整な高千穂峰の輪郭も、やはり靄靄としている。大噴火から三年が過ぎたが、新燃岳は現在も地下マグマが膨張しているそうで、火山性地震も頻発していると云う。気象庁の警戒レベルは引き下げられたが、新燃岳には相変わらず立ち入ることはできない。いずれは沈静化するであろうが、何時のことになるのかは分からない。

火山群の上を辿り、此処から琵琶池、獅子戸岳、そして新燃岳を経て、中岳の北側をふたつの火口を眺めながら歩き、御鉢と高千穂峰を望みながら、高千穂河原へと下って行く。霧島連山の縦走路である。

歩きたい、と思うが、其れは文字通り、自然の成り行きに任せるしかないようである。

新燃岳の、兎の耳と呼ばれる特徴的な火口南面の双岩峰が、不気味な程静かに、屹立している。新燃岳は、近くて遠い山なのであった。私は其れを、茫洋とした気分で、何時迄も、眺めているばかりだった。


Shinmoedake

追記

韓国岳から下山。時間的には微妙だったが、途中から欲が出て快速で駆け下り、13時発のバスに間に合う。結局、また高千穂河原迄連れていかれてから、丸尾に戻った。直ぐに温泉に浸かっても時間があり余るので、一日乗車券を駆使して、霧島神宮へ参詣した。再度丸尾に戻り、相変わらずの前田温泉で汗を流した。

別記

『火山噴火予知連絡会(会長・藤井敏嗣東大地震研究所名誉教授)は、霧島連山・新燃岳(1421メートル)で、2013年12月ごろからマグマだまりが膨張傾向を示し、今月20日ごろには火口直下を震源とする地震も一時的に増加していることを明らかにした。25日、気象庁(東京)で開いた例会で報告。同会は「マグマの供給量は増えていると思うが、これからどうなるか分からない。今後の推移に注意する必要がある」との認識を示した』
宮崎日日新聞(2014年2月27日)より。

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