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ハンギョウ尾根から三ツドッケ・登山詳細図踏査隊と歩く。

Hangyo2


個人的な日常から逃れて、非日常的な風景を感じる為に、山に登る。然るに、最近の自分に、其の非日常の感銘を受け入れる精神状況が希薄になっているのではないかと云う感じがしてならない。生半可に、登山の行為が手馴れたものと云う風に感じている自分を意識せざるを得ない。未明にベッドから這い出て、山行きの準備をして始発電車に乗った途端に既に興奮していると云う、あの高揚感が無い。碌な経験も重ねていないのに此の倦怠感。如何にも勿体無いと思う。そんな曖昧な気分に浸っていたところに、「登山詳細図」奥多摩西部篇の為の踏査に誘われたので、参加することにした。後ろから押す力が希薄な時に、何かに引っ張って貰うのは僥倖だと感じる。行きたい処が思い浮かばないので、世話人氏が計画したルートに従って登山をするのは気分が楽である。そんな不埒な想念の儘、青梅線の電車に乗った。


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2014/5/16

鍾乳洞バス停(9:00)---賀郎橋---ハンギョウ尾根---板形ノ峰---天目山(三ツドッケ)---一杯水避難小屋---ヨコスズ尾根---東日原バス停(16:00)

久しぶりの奥多摩駅に、集合時間の随分前に到着した。平日の日原方面は、バスが鍾乳洞の近く迄運行する。其のバスの発車直前に、世話人氏と初見のふたりが到着した。男性のNZ氏、女性のHMさんと曖昧な挨拶を交わして、慌しく出発した。終点の鍾乳洞迄残ったバスの客は疎らで、川風が爽快な小川谷林道を歩いていくのは、我々踏査隊だけであった。

踏査の予定は、小川谷林道を辿り、カロー谷が分岐する処で二班に別れる。世話人氏とHMさんがカロー谷に沿って大滝迄辿り、ハンギョウ尾根へ登り詰める。NZ氏と私は、ハンギョウ尾根を末端から登っていくと云うコースであった。日原の奥に至る此の辺の山域は、全く初めての訪問で、何処を辿るにしても新鮮な気分である。しかし、正直な気持ちとしては、カロー谷に行ってみたいなと思っていた。しかし今日は踏査隊の一員であるから、我儘なことを云ってはならない。分岐点の賀郎(カロー)橋で、私はハンギョウ尾根への取り付きはどの辺りなのかと窺っていた。

私が余りに愛想が無いからなのか、HMさんが話し掛けて呉れる。山岳会に所属していると云う彼女と、緻密なルートが記されてある地形図を持参し、要所では克明にメモを取るNZ氏。世話人氏の仲間が、百戦錬磨の猛者が、集結したのに違いないと私は合点し、なるべく目立たないように離れて歩いていたのだった。不必要な人見知りで勝手に緊張している自分が、ほとほと嫌になる。皆が冷静で寡黙で、山に対峙していると云うのが実質的な状況で、私があれこれと考え込んでいることは、全く今日の行程の意義に与しないのであった。

賀郎橋からカロー谷へと入っていく分岐には、東京都水道局による、入山者の皆さんにお願い、と云う看板が立っていた。昭文社登山地図には記されていないが、カロー谷に沿った遊歩道のような道が辿っている。蛇行する沢に降り注ぐ陽光が、新緑の色を帯びている。私は、後ろ髪を引かれつつ、NZ氏の後ろから、ハンギョウ尾根に乗る、岩の合間を辿る踏跡を登っていった。程無く、下方から声がして、HMさんが我々を呼んでいる。怪訝な思いの儘、カロー谷へ向かった筈のふたりが登ってくるのを待った。

整然と続いているかに見えたカロー谷沿いの道は、間もなく頑丈に施錠されたゲートで遮断されていたとのことだった。其のゲートの佇まいは、見えざる巨大な力のようなものを感じさせ、登山地図に掲載するために無理矢理越えるのは実情的ではないと云う、世話人氏の感懐であった。そういうわけで。結局全員でハンギョウ尾根を登っていくことになった。折角四人も居るのにひとつのルートだけを踏査するのは勿体無いが、意図するところは小川谷林道界隈から天目山に登る道筋の調査であるから、止むを得ない。


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ハンギョウ尾根は明瞭に北へ伸びていて、道は尾根の側面を緩やかに刻んでいたが、尾根の上に乗ってからは、厳しい直登が続く。途中に東面に沿った作業道らしきトラバース道があって、何度か迷い込みそうになる。三人が速いペースで登っていくので、私は遅れながら自分の調子で歩き続け、随分引き離されていった。途中、とうとう作業道に嵌って、皆が引き返してきた。其れからは、実直に尾根上の急勾配を進んでいく。NZ氏のペースが落ちてきて、自然と二班に別れることになった。

樹林の隙間から、西北の方向に大きな尾根が聳えているのが窺えた。早く其れに近づいていかないかと思うが、山肌はいよいよ険しく、喘ぎながら登り続けた。慰めは見事なブナ林の眩い緑で、時折、印象的な巨木が現われると、小休止になった。傾斜は急だが、其れで格別に疲労するわけではない。しかし、未だに尾根が合流する処迄すら達していない現状が、先が長いと云う想念に繋がって、奥多摩の懐の深さを感じさせるような気がした。

ブナ林の急坂は、小さな岩礫と枯枝が混じるようになった。見上げると、漸く左から登ってくる大きな尾根と合流するのが窺えた。其の途上で、踏んだ枯枝が跳ね返って、私の穿いているサポートタイツの左の脹脛の辺りに引っかかり、化繊を引き裂いてしまった。随分使用してきたので生地も薄くなっていたから、さもありなんと思うが、破れたタイツを穿いたまま歩いていると、やはり気落ちしてしまう。

1086m点を経て登ってくる西からの尾根に合流した。延々とモノレールの軌道が連なっている。其れは予備知識として持っていたから驚きは無い。ひたすら続くハンギョウ尾根が、東北東からうねるようにして北に旋回し、せり上がっていく。軌道が其れに忠実に続いていた。奥深い尾根の上に、今迄とは違う陽光が降り注いでいる。新緑の森を二分して左右に見下ろしながら、我々はモノレールに沿って実直に登っていった。


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世話人氏とHMさんの山岳会コンビは文字通りの健脚で、残るふたりは瞬く間に引き離される。NZ氏が降参したように座り込んで休憩したのを幸いに、私も軌道に腰掛けて大休止をする。モノレールの軌道は、此の山懐の感興を削いではいるが、我々にとっては手摺りになり、ベンチにもなる便利なものと化している。モノレールはやがて終点の白い標識とともに途切れた。長沢背稜が近いと思わせるが、最後の標高差五十メートルで偽ピークがあり、登りきっても未だ先があるから、NZ氏が嘆息の声を上げる。

空が広がり、最後の樹林帯の壁を抜けて、縦走路に出た。其処から北に少し盛り上がった処が板形(ハンギョウ)ノ峰で、久しぶりに奥武蔵の風景を眺める。秩父の町が山間の彼方に広がっている。端整な三角形が武甲山で、石灰岩を削られ続けている異形の山容ではない。あの裏側に廻れば、まるで人体解剖模型のようにグロテスクな山が現われるのかと思うと、不思議な気分になる。

縦走路の傍らで休憩してから、天目山に向かう。三ツドッケは縦走路から離れて登り口があり、捲道が中腹の避難小屋を経由しているから、踏査隊は二手に別れるところだが、とりあえず全員で登頂することになった。山歩きを始めて、奥多摩に何度も通った。川苔山から、稲村岩尾根から、遥かに連なる長沢背稜の、顕著なピークが三つの塊になって聳えているのを何回も眺めた。其れはいつも高く、幅広く聳える巨大な山々だった。漸く其処に辿り着いたと云う思いが密かに湧き起こってくる。

天目山の1576mピークは、或る個人が眺望のために無許可で伐採したと云う話があって、読んだ記事によると、二年近くを掛けて二百本以上の檜などをひとりで伐り続けたと云う。其の功罪に就いて考えるのは容易では無いので考えない。だから、其れは如何なる見晴らしなのかと思っていたのだが、想像以上に素晴らしい眺めであった。正面に聳える鷹ノ巣山から、幾つもの尾根が形成されているのが見渡せる。昨年過酷な沢登りを行なった鷹ノ巣沢の方を指して、世話人氏が位置関係を教えて呉れる。奥多摩の広大さ、奥深さが一望できる山頂であった。


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先程の分岐に戻り、捲道で避難小屋迄を踏査する世話人氏と別れ、三人で三ツドッケの稜線を歩く。南南東のピークを過ぎた処で、さらに別れて踏査を行なう。私はひとりで、ヨコスズ尾根直下に続く道を歩く。ミズナラの新緑が眩しい。所々に躑躅の赤が混じった静かな尾根には誰も居ない。右手に、先程迄這うように登ってきたハンギョウ尾根が緩やかに連なっている。ロードメジャーを転がしながら、軽快になる足取りが何だか勿体無い。少し立ち止まって、暫く奥多摩に吹く心地よい風に当たって、紫煙を燻らせた。山に登る行為と云うものに惰性的になり、瀰漫しつつあった心の裡に、新しい風が吹き抜けていく。私は、意識的にそんな気分を、味わっていた。


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追記

一杯水避難小屋から、ふたたび全員でヨコスズ尾根を下る。広葉樹林帯の心地よい風景に別れを告げて、滝ノ入ノ峰の広い山頂部を大きく東側にトラバースする登山道を辿った。標高950mの分岐でNZ氏と二手に別れて、難なく東日原バス停に下山。滝ノ入ノ峰付近から南東に下る、倉沢見通尾根を踏査したふたりと、帰途のバスで合流した。

世話人氏の日記

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