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足柄駅から金時山・丸岳・箱根外輪山・初めての雪上野営(前編)

Ashigarakintoki


御殿場線の電車が山北駅を過ぎて、熾烈な勾配を登っているのだぞと云わんばかりにモーターの音を唸らせている。山間の谷峨駅を発車して、窓外には絵葉書のような、雪化粧をした富士山が現われた。駿河小山の駅名板を見て、ああ静岡県に居るのだなと実感する。日曜日の朝なのに、車内にはハイカーらしき乗客は見当たらない。私は、足柄駅に近づいているアナウンスを聞いて、巨大なザックのショルダーハーネスを掴んだ。久しぶりのテント泊。それも真冬の箱根単独行である。積雪の山で幕営すると云う、初めての行為である。心地よい緊張感が全身に染み渡ってくるような気がする。電車が減速して、古びた足柄駅に進入した。快晴で眩い陽光が降り注ぐプラットホームに降り立ったら、強風がものすごく冷たくて驚いた。


Kintoki1

2014/1/20

御殿場線足柄駅(8:50)---円通寺---公時神社---金時山---長尾山---乙女峠---丸岳(15:00)

テントを担いで山を歩くのは、日帰りでは踏み込めない行程を辿る為なのであって、自然の儘に野営を愉しむと云う意図では無い。しかし、北アルプスの縦走でも実感できたが、山に泊まることで、夜と昼の境界と云う、最も情緒的な風景を愉しめることも事実である。真冬に野営すると云う経験を得る為の、訓練登山の計画だが、惚れ惚れするような景色も味わいたい。富士山と、芦ノ湖を巡る箱根の山を眺めたい。其れが箱根外輪山の途上で幕営しようと思った経緯である。

相変わらずのクレッタルムーセンHuginの中に、今回は銀マットを筒状に入れてある。サーマレストの折り畳みマットだけでは床の冷えが心配だからと云うことで、二重に敷こうと考えた。その筒状に入れた銀マットのお陰で、ザックの形が崩れないから、思いの外パッキングが上手に出来た。そんなことかと後になってから思うが、新発見、新たな実感である。試行錯誤の末の僥倖は、山の中だけで起きるわけではない。型崩れしなくなったクレッタルムーセンは、巨大な煙突のような筒になった。

そんな黄緑色の大きな筒を背負って、私は足柄駅を後にした。住宅の並んだ地域を通る車道を暫く歩く。新しい住宅建築が多いので、田舎の集落と云う雰囲気ではない。日曜の朝らしく、周囲は静まり返っている。やがて住宅街が途切れる頃、線路に併行するように車道が右にカーブしていく。金時山に詰め上がる鮎沢川の支流を渡って、車道を歩き続けた。閑散とした車道に、時折通過する車のスピードが恐ろしく速いので、怯えながらゆらゆらと、大きな筒が歩いている。


Kintoki2

種苗販売の看板が在る処で、漸く円通寺の指標が現われ、左折する。御殿場線の線路を越える橋の上で振り向いたら、富士山が目の前に聳えている。山腹が、スコップで固められたように雪で埋まっている。一瞬、宝永火口が雪で埋まっているのかと思ったが、方角を勘案すると、須走口、御殿場口ルート周辺の稜線であった。頂点から裾迄、富士山の全貌が普通に見えると云うのが、とても不思議なことのように思えた。

円通寺の墓地を遠巻きにして登り、足柄神社を越えると、舗装路が平坦になり、家が点在する集落を通過する。山林が現われ、舗装路は高原の別荘地のような雰囲気になる。やがて、色褪せたゴルフ場が現われる。クラブハウスを過ぎた処で、漸く登山道になった。暫く尾根の横腹を縫うように続く薄暗い道を歩く。木々の合間から差し込む陽光に、雪の粉が舞っている。遠くに明るさが窺えて、樹林帯がもうすぐ終わるのかと思った頃、金太郎を祀る公時神社の看板が現われた。登山地図に記されている、浅間塚であった。

明るくなった山道の先に、古びた堰堤が聳えている。其処に続く道と分かれて、金時山の道標があり、いよいよ登りに掛かる。平行していた沢は長尾山に向かっているが、登山道は今迄トラバースしていた624.4mピークの在る尾根に登り始める。勾配を上げて行くと、支尾根に沿ってジグザグの坂路になり、端整なレタリングと色調の道標が現われる。地元行政で物議を醸し出している岩田澗泉氏制作の道標である。道中安全と書かれた道標は、非常に的を得た位置に立っていた。


Kintoki3

ジグザグ道を登るに連れて、雪が深くなってきた。木立の向こうに、御殿場の市街地が広がり、富士山が聳えている。晴天の登山道に、人が居ないのが嬉しい。やがて左手から尾根が近づいてくる。金時山から伸びる尾根である。其れに合流してひと登りで、林道金時線がヘアピンカーブしている処にぶつかった。轍の跡もない深雪の林道で、持ってきた手製の握り飯を食べて休憩した。

其処からは、実直に登路が続く。822mの小ピークと思しき地点に近づいた頃、左手に長大な尾根が聳えているのが見えた。足柄峠からやってきた長い尾根である。日蔭で暗い斜面は、標高よりも大きく聳えているように感じた。あの尾根と合流すれば、金時山は直ぐ其処だ。私は、拍子抜けとは云わないが、呆気ないな、などと云う感覚で歩いていた。


Kintoki5

尾根が合流する標高約1000mの地点。其処は此れ迄以上に積雪が深く、目の前には金時山への斜面が急激に高く聳えている処だった。アルミ製の階段があり、凍てついた手摺りを摑んだ。階段は十二有ります。そんなことが書いてあるので、面食らった。岩崖に連なるアルミ階段の一歩一歩を、滑らないようにと踏んでいく。徐々に下山の徒が増えてきて、擦れ違いに気を遣う。下山者が圧倒的多数派で、先頭で向かってくる人が、登ってくる人がいるぞう、などと後続のパーティに叫んでいたりする。

積雪、凍結の北面を下山する人々は、年配のグループが多く、ピッケルを持っている老人なども居る。時折、普通の恰好をした若い男女のカップルが降りてくる。覚束無い足取りで、女の子の顔が蒼白になっているので大丈夫かと思う。続々と降りてくる人々が、私の恰好を見て、凄い荷物ですね、とか、重いですか、などと云う。老年の女性のグループが降りてきて、其のひとりのおばあさんが、今夜は何処かでビバークですかと訊いた。私は狼狽しながら、まあ何処かで、などと曖昧なことを答える。何処迄行くのと、畳み込むように訊かれるので、冬に幕営するのが初めてなので其の訓練ですと、生徒が先生に報告するみたいに答えた。

おばあさんの口調と、雰囲気は、相当の熟達者のような威厳があった。がんばってね、と云われ、恐れ入りながら低頭し、私は引き続き円筒を背負って、登り続けた。

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