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二子山入口バス停から甲仁田山(後編)

Matsueda


南東から登る甲仁田山への道で、思いがけない程の紅葉風景に出会った。山頂迄は細い尾根が一直線に続いている。道筋は確かだが、傾斜は徐々に厳しくなってきた。しかし、高度を上げるほど、紅葉の色は濃密さを増してきているようだった。我々は嬉々として、休みましょうか、そうだね休憩だね、などと言い合っては、同じような紅葉の写真を撮り続けていた。風光明媚の享受は、感覚としての快楽なだけあって、文章で綴っても説得力が無い。甲仁田山南東尾根は頂上迄急登が続き、最後は巨岩が要塞を覆う壁の如き様相であった。其の隙間を選んで、ぽっかりと広がる青空の下、甲仁田山、別名久松平に登頂した。電波塔の直ぐ隣の、盛り上がった広場に三角点があり、山名標の類は無かった。


Kounita2

2013/11/23

二子山入口バス停(7:50)---甲仁田山南東尾根630m圏東枝尾根---甲仁田山南東尾根---甲仁田山---二子山雄岳---770mピーク---530m圏峰---西北西枝尾根---登山道---芦ヶ久保駅(15:00)

甲仁田山の頂上広場は、造成されたかのような平坦さであった。電波塔を建てるために削った土を、此処に溜めて作ったのではないかと、kz氏が信憑性のありそうな推測を述べた。陽光が降り注ぐ心地よさに、気がついたら一時間も休憩していた。電波塔の向こうに見える武甲山は、人為的な風景を二重に表現しているように感じる。木段を降りていくと舗装路が現われ、電波塔の敷地を遮るゲートの前に出た。車道から広がる風景。其の正面には、次に目指す二子山の、ふたつのピークが鎮座しているのが見渡せた。


Kounita1

標高847mピークの甲仁田山から、西北に尾根が伸びている。鞍部を経て、細いが緩やかな尾根が二子山へと続いている。其れを忠実に辿ろうとすると、電波塔の敷地を越えていかなければならないので、一旦舗装路を北東へ進み、途中で山の斜面をショートカットして、大きくカーブして引き返してくる車道に復帰した。舗装路は程無く西北への鞍部に寄り添っていき、我々は尾根に乗ってふたたび登り始めた。

植林帯が続く緩やかな道が終わると、岩が散見するようになり、周囲はふたたび黄葉の雑木林になった。私は自分の稚拙な読図能力なりに、此の緩やかな尾根を描く地形図を見て、具体的に云えば、標高850m地点から先が、異常に細いと云うのが気になっていた。極めて細い尾根が平坦に続いていると解釈するのが適当だと云うのも判っていたが、どんな様相なのか、見当がつかない。そんなことを考えながら歩いていたら、見通しが良くなった行く手の先に、巨大な露岩が現われた。

予想外の光景に、一瞬足が止まる。一枚岩の右手に、なんとか登れそうな傾斜を見て、恐る恐る攀じ登った。其の先に断崖があり、片足が乗る程度の細い岩の淵を辿っていく。眼下は谷底で、植林帯の鬱蒼とした森が広がっているのが見えた。足を踏み外したら、もうお仕舞いである。血の気が引いてくるのを自覚しながら、漸く渡り終えた。kz氏が、怖い怖いと叫びながら後から登ってくる。此れはいつものことで、喚いているくらいの状況では、恐怖は其れほどでもないと云うのが本人の弁である。


Kounita3

露岩の上に立って振り向いたら、電波塔の甲仁田山が静かに佇んでいる。植林の山裾から、今歩いて来た紅葉の平坦な尾根が続いていた。細過ぎる等高線は、此の岩場を表現していたのだ、そう理解することにした。気を取り直して、其の儘、二子山へと続く尾根道を進んだ。露岩で肝を冷やしはしたが、其の後は呆気なく登山道に合流した。二子山雄岳の北面に在る岩場から、ヨーガイ入対岸の尾根と、ひと際目立つ武甲山に至る迄の眺望を茫然と見渡した。

雄岳から北西方面に開けた展望地にも立ち寄り、kz氏と山座同定を愉しんだ。秩父市街を一望し、彼方には独特な形で聳える両神山と1166mの山容が顕著な二子山が在った。奥秩父山地の遠さが改めて実感できる、そんな眺めであった。尤も、其の遥か彼方には、浅間山と八ヶ岳の銀嶺が浮かんでいる。何処迄も歩いていきたい、そんな欲望に身体が満たされていくような気がした。


Kounita4

春先に立ち寄った雌岳は省略し、ロープが渡してある急激な斜面を降下して、登山道から別れた。道標には「行き止まり」と書かれた方角に登り返していくと、穏健なくらいに広い標高770mピークに達する。登山道は先程の分岐から兵ノ沢に下降していくようだが、此のピークから北に向かって伸びる尾根の上を歩けば、芦ヶ久保駅方面へと下ることができる。其の途上は自然の儘の雑木林で、整備され尽くした感のある奥武蔵の印象とは掛け離れた、気持ちの良い尾根歩きを満喫できる。紅葉風景が次第に広がり、落葉の道が冬の始まりを予感させて呉れる。

770mピークから、コンパスと地形図を凝視して、微妙に分岐している尾根を確認しながら北へと下っていく。此の儘行けば、登山道の末端、ハイキングコースの看板に合流すると云うことは、春先に歩いて経験している。kz氏は、今回は敢えて其の直前で右に分かれる尾根を下ろうと云った。芦ヶ久保駅のプラットホームの目の前に出ると云う目論見である。紅葉の自然林が翳りを見せて、岩の重なる難所を経て、鞍部が現われたら、530m圏峰に登り返す。樹林に囲まれた平坦な場所に立つと、芦ヶ久保の気配が聞こえてきた。駅は直ぐ其処にあるような距離感である。

530m圏峰の茫洋とした地形から、尾根は三方に分岐している筈だが、私は選択肢が無いと云う感覚で歩を進めていたような気がする。kz氏も、分岐する尾根を確認できていたかどうか定かではないが、前回歩いた尾根を従順に進んでいく私に注文をつけることなく後ろを歩いている。周囲はふたたび紅葉の暖かい明るさに包まれた。芦ヶ久保駅から僅かに登っただけで、自然林の紅葉風景に囲まれることができると云うのが信じられない。谷沿いのハイキングコースを歩いていたら、此の風景には永久にお目に掛かれないのだと思うと、痛快な気分になった。


Kounita5

同じ道では詰まらないから向こうに下りてみよう。風景に忽然としている私にkz氏が云った。真西の方角に落ちていく谷を挟んで、植林帯の尾根が見えた。登山隊にはリーダーが不可欠で、指導者の判断は其れ事態が秩序である。隊員は秩序を遵守しなければならなくて、秩序を乱せば命運が急転する可能性すらあるのだ。私は何処かで読んだような気がする言葉を繋ぎ合わせて、自らを納得させるための理屈を拵えながら、落ち葉の積もった斜面を歩いていくkz氏の後を追った。紅葉の明るい尾根が遠ざかり、薄暗い樹林帯へと進む。暫く谷に沿って下りながら、目指す尾根に乗るための斜面を探して歩くkz氏が、暗くて寒いよと、独り言にしては大きな声で云った。一兵卒の私は、不条理な思いで其れを聞き流した。

鬱蒼とした植林帯の尾根を下り続けて、やがて沢の流れる音が聞こえてきた。二子山への登山道が併行する兵ノ沢である。やれやれと思った途端、斜面は急になり、やがて杣道のようなトラバース道が現われた。兵ノ沢は直ぐ其処に見えるが、尾根は急激に落ち込み、崖になっていた。杣道を辿って迂回しながら降りるしかなかったが、道は程無く曖昧になり、涸れた沢に下り立つと、巨岩の上に出た。岩の上から眼下を見れば、薄暗い沢沿いの登山道が在った。岩の側面から登山道に合流したので、何はともあれ安堵したのだった。

登山道を其の儘下っていくと、やがて先程別れた尾根が近づいてきた。眩い光を浴びた尾根が登山道と合流する処を乗り越して、ジグザグに下ると、芦ヶ久保駅が直ぐ其処に在った。一直線に貫く正丸トンネルの上を、右往左往しながら山を越えて歩いて来たのだと思うと、感慨が深まっていくのを感じた。国道に面している道の駅に、夥しい数の車が駐車している。芦ヶ久保駅の周りが、松枝バスを待っていた寒々しい朝が信じられない程、賑わっていた。

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