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二子山入口バス停から甲仁田山(前編)

街道沿いの山腹に在る正丸駅を、西武秩父線のローカル電車が静かに出発すると、張り出した尾根に突入するように、トンネルへと吸い込まれていく。全長4811mの正丸トンネルである。マイペースの速度で走るローカル電車に乗っていると、其の距離感は気が遠くなるくらいに、長く感じる。刈場坂峠、虚空僧峠、そして正丸峠。鉄道に立ちはだかる山脈が、伊豆ヶ岳へと続いているわけだが、此のトンネルは正丸峠を越えて尚、併行する国道の正丸トンネルが口を開ける横瀬川沿いの谷の下を潜った儘で、芦ヶ久保駅迄走り続ける。国道は次の尾根を迂回して谷に沿って走るが、電車は一直線に続く長大なトンネルを走り続けるのである。

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2013/11/23

二子山入口バス停(7:50)---甲仁田山南東尾根630m圏東枝尾根---甲仁田山南東尾根---甲仁田山---二子山雄岳---770mピーク---530m圏峰---西北西枝尾根---登山道---芦ヶ久保駅(15:00)

正丸トンネルの秩父側を構成する尾根の先には、二子山の双耳峰が在る。其の山塊の東側の周縁に街道が通じている。芦ヶ久保駅から国道299号を正丸方面に戻り、トンネルの手前で横瀬川沿いの細い街道に入り、松枝と云う集落へと向かうバスが走っている。普通の登山者が見向きもしない、二子山への尾根に登るには好都合である。しかし、此のバスが曲者で、途中の長渕止まりの便も含めて、運行は一日四本しか無い。土日祝日に至っては、終点迄行く便は平日よりもひとつ少なくて、一日二本である。

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此の松枝行きバスに、今年の春にkz氏と乗った。乗客は我々以外に居なかった。時刻表を見ても判るが、行楽客を相手にしていないバスのようで、行楽客も当然相手にはしていない。驚くべきは、松枝行きバスは西武バスが運行しているのに、西武鉄道芦ヶ久保駅の職員にバス停の所在を訊いたら、其の存在自体を知らなかったことであった。バス停は駅前ではなく、国道沿いの郵便局の前にぽつんと立っていた。平日にどれだけの乗客が利用するのか知らないが、風前の灯、いつ廃止されても不思議ではないバス路線である。

道無き道を行くバリエーション・ルート専門のkz氏と、昨年末から歩き始めた奥武蔵だが、夏のブランクを挟んで、秋が深まる頃に再開しようと話していた。春先に歩いた、松枝から始まるヨーガイ入右岸尾根からの焼山登山が印象深い。そして、あの無人バスにもういちど乗ってあげようと云う妙な感懐のようなものもあって、シーズン最初の奥武蔵は、とにかく松枝バスに乗って何処かの尾根に攀じ登ると云うことに決まった。大雑把な目標だが、其の風まかせな雰囲気が楽しい。伊豆ヶ岳からも明瞭に眺められる、電波塔が目立つ甲仁田山へ登ってみましょうと、私はkz氏に進言した。尾根が在れば何処からでも登ってやる、と云わんばかりなkz氏に異論は無かった。

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11月下旬の連休、芦ヶ久保駅で下車したハイカーは少なくなかったが、二子山へ、丸山方面へと、直ぐに散り散りに去って行った。此れを逃したら次は5時間後と云う、松枝行きバスを、固唾を呑んで待った。空気を乗せたバスは、定刻に到着した。徐々に朝陽の暖かさを迎えた芦ヶ久保駅前から、バスは暗い谷に向かって走り出した。処花を過ぎて、国道から外れて山行きバスの雰囲気になる。終点松枝の手前に、二子山入口と云うバス停が在る。其処で下車した。ヨーガイ入に沿った車道から、焼山と二子山の中間の稜線上に登る道は、昭文社登山地図にも赤い実線で記してある。我々はバス停から街道を戻り、ヨーガイ入の、今回は左岸側の尾根に乗ろうと考えている。尾根の末端を目指して、街道が大きく膨らむ地点迄戻ることにしたのであった。

道がカーブしている尾根末端は、コンクリートの擁壁が固められていて、登ることができない。少し松枝側に戻り、微かに傾斜が緩い箇所を発見した。意を決して踏み込んでいく。植林帯だが、木々は疎らな間隔で立ち並んでいる。踏跡と云えなくも無い斜面の軌跡を辿り、少しの急傾斜を登りきると、尾根の上に出た。眼下に、先程迄歩いていた車道のカーブが見える。其の向こうに、横瀬川が冷たそうな音を立てて流れていた。山並みの合間から差し込む陽射しに、紅葉した木々が映えている。薄暗い谷間に、其れはひと際輝いて見えた。

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一旦尾根に乗れば、後は明瞭に続く目指す方角へと登るだけであった。程なく標高530mで等高線が閉じたピークに立った。平坦な尾根の真ん中を進むと、やがて植林の倒木が散らばる急斜面になる。標高600m迄の途中で、杣道のようなトラバース道が散見できるが、其れに頼っていくと尾根から徐々に遠ざかっていくので、渾身の力で木を掴み、尋常ではない傾斜を登っていった。左手から別の尾根が近づいてくる。そう認識した時には、自分が尾根の上に居るのかどうかすら判らないほど、山の斜面に張り付いているような恰好になっていた。喘ぎながら、尾根が合流する地点に到達した。

樹林帯の途上に辿り着き、ふたりとも飲料を牛のように飲んだ。合流した尾根上には明瞭な踏跡が続いている。此れはヨーガイ入の車道途中から続いている道で、地形図にも破線で記されている。昭文社に於いては、甲仁田山に至る道筋自体が皆無なので、此の破線も殆ど信用してはいなかった。予想は嬉しい誤算となった訳で、気を取り直してリスタートする。緩やかな登りから、少しの急登で標高680m地点に乗り上げる。目の覚めるような紅葉が広がる地点で、樹幹の立ち並ぶ合間から、武甲山が三角形の頭を出しているのが見えた。

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鬱蒼とした植林帯を登り続けてきたが、其れが終わり展望が開けたら、快晴の青空に、陽光が楓の紅い葉を照らす眩いばかりの光景だった。kz氏はザックを置いて、周辺の景色を撮影する行動に出た。私も腰を下ろして、煙草に火を点けて休憩した。尾根の斜面の下方から、すごいすごいと云うkz氏の声が聞こえてくる。空の青と、木々が彩る赤のコントラストは唖然とするような鮮やかさであった。誰も居ない静かな山の途上で、誰の為でもなく燃えている紅葉の木々を、いつまでも眺めていた。

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2013/11の山歩き

2013/11/8
梁川駅(10:50)---月尾根沢---立野峠---細野山---鳥屋山---舟山---寺下峠---梁川駅(16:20)
2013/11/10
高尾駅(8:30)---小仏川遊歩道---高尾天満宮---尾根を直登---蛇滝林道---金毘羅台園地---一号路---高尾山口駅(11:40)

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コメント

正直、電波塔の建つ、甲仁田山には、あまり興味が無く、一度山頂を踏んでおけば…という感じでした。
七目さんは、あんな興ざめな山頂のどこに魅かれたのかな?
と疑問に思いながらの山行でした。

そんなわけで、ほとんど何も期待していなかったので、あの紅葉は大どんでんがえし。
七目チョイス最高!
と心の中で拍手喝さいでした。
そして、山は登ってみなければわからないということを教わりました。
電波塔が建っていても、山は山なのです。

途中経過で楽しめればそれでいい。

あの紅葉の時期と晴天、神様が導いてくれたとしか思えませんよ~。
紅葉と晴天は、狙って出かけても、なかなか巡りあうことはできません。
偶然って恐ろしいわ~。

松枝行きバスに思わず乗りたくなってしまいそうな文章ですよ。
来年は、紅葉目当てに嘘のように混雑することでしょう。

松枝の魅力をた~ぷり紹介する松枝伝道師になりつつありますね。
これからも大いに布教活動を進めていきましょう!(笑)

松枝最高!
今年こそザゼンソウ!

投稿: かず | 2014年1月 7日 (火) 21時50分

随分間が開いてしまいました。紅葉の季節、懐かしいですね。
電波塔の立つ山は興ざめですが、そんな人工的な山に、なぜか登山コースが記されていないというところに面白さを感じたのかもしれません。

紅葉は素晴らしかったですが、ハードな傾斜でしたね。やはり一般的ではないなと思いました。

文章褒めていただいて嬉しいです。松枝バス存続のために、次は雪の松枝を書かねば。しかしこの遅筆。どうなることやらでございます。


投稿: 七目 | 2014年1月15日 (水) 00時18分

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