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唐松岳・五竜岳(前編)

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ゴンドラとリフトを乗り継いで、気がついたら標高1800mに居る。心の準備ができていない儘、取り留めの無いことを考えた。ゲレンデの山肌は色づいていて美しい。紅葉に群がる人々は、まるで花弁に集る虫のようである。麓である白馬八方からの標高差は1000mである。山と云うものは歩いて登るもの、其の労苦の感覚が、身体に染み付いているから、なんだか悪いなと云う気持ちも有るし、時間を稼いで得をしたと云う思いもよぎる。日曜日の正午近くに、登山姿でリフトに乗ろうと云う者が見当たらない。巨大なザックを抱え、所在無い感じでリフトのバーを握り締めている自分が、不必要な迄に目立っているような気がして落ち着かない。紅葉が最高潮を迎えている八方尾根の遊歩道は夥しい観光客で賑わっていた。何処かのテーマパークに居るような感じである。

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2013/10/6

八方池山荘(11:50)---第三ケルン---丸山ケルン---唐松岳頂上山荘(15:20)---唐松岳---唐松岳頂上山荘(17:45)

猛暑が和らいで、漸く過ごしやすくなったと思ったら、九月は呆気なく終わってしまった。秋の空の喩えの通りに、天候が落ち着かない日々が続いた。其れが漸く治まって、仲秋の名月を眺める頃には、絶好の好天が訪れたから、なんとか今年のうちにもう一度北アルプスに行きたいと云う気持ちが高まってきた。常念山脈を三日間掛かって踏破した苦悶の記憶は薄らいでいた。性懲りも無く、山へ行くのだと興奮しているが、例によって何処に行くのかと云うところから始まる思案が延々と続いていた。

今度こそ奥穂高岳に行くのだろうと思っていたが、書架にある「鹿島槍・五竜岳」の登山地図が気になってきた。常念岳の時に熟慮した計画思案の時は、白馬方面は絶対的に距離が遠いと云う認識があった。青春18きっぷの鈍行旅行の前提があったから、長時間鉄道で移動した場合、登山口に立つ時間は必然的に遅くなる。其れをを回避するために、なるべく早めに列車から離脱しなければならないと考えていたから、穂高駅で下車して中房渓谷へのルートを選んだのである。しかし、駅から尾根に乗る迄の所要時間を考えたら、白馬駅からゴンドラ経由で八方尾根に行くのが断然早いと云うことに、やっと気付いたのだった。

また、白馬駅の手前にある神城駅に下りて、やはりゴンドラ駅に移動すれば、五竜岳への遠見尾根に難なく乗ることができると云うことにも気付いた。八方尾根から出発して、唐松岳に登頂し、五竜岳へと稜線を渡り歩いて神城駅に下山するか、遠見尾根から五竜へ、そして唐松に向かうか。北アルプスの入門コースと云われるコース設定だが、計画は直ぐには確定しない。

初めての上高地の時にも書いたが、できれば夜行バスで移動したくないと云う思いがある。窮屈な姿勢でバスに揺られ、寝不足の疲労を蓄積した状態で山に登りたくない。そして、そもそも白馬へ行く夜行バスは平日には運行されていない。新宿から朝に出発するバスで白馬に向かうと云うことは、登山としては遅い時刻から出発しなければならない。其処で索道の終点、八方池山荘からから唐松岳頂上山荘迄の所要時間を換算する。其れは三時間半である。理想的とも思えるが、一抹の不安を感じた。

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十月の北アルプスと云う状況が判らない。上高地から岳沢小屋迄歩いたのは九月の後半だったが、其の時は午後四時にはテント場に到着していた。紅葉の八方池を散策するだけなら心配することもないが、標高2600mを越える稜線上にある唐松岳頂上山荘に、最低限何時迄に到着するべきなのかと云うことの見当がつかない。新宿発昼行バスの出発時刻は微妙に遅く、白馬八方に到着するのは午後一時に近い。リフトを乗り継いで歩き始めるのはそれから三十分後くらいだろうかと想定すると、小屋に着くのは順調に歩いても午後五時である。

初めての経験である、秋の高山を軽視することができない。常念岳からの途上で、山と高原地図の所要時間を盲信できなくなっていたから、私は怖気づいて逡巡した。テント場には、遅くても午後四時には到着したい。初めての山、初めての秋山、それも北アルプスである。余裕を持った行程で臨まなければならない。常念山脈で、無情に流れる時間に切迫して歩いた苦い経験が蘇ってくる。我儘を云ってはいけない。混雑する週末も厭わず、夜行バスに乗って早朝に白馬へ。時間を気にすることなく、のんびりと八方尾根の眺望を楽しみながら歩くべきである。そう決心した。

白馬八方へ夜行バスで行く。ただ其れだけなのであるが、此処迄決まるのに随分右往左往したような気がする。あとは好天を期待する、と云うよりも、今度こそ晴天の北アルプスを歩くことに執着した。切実な願いとともに、私は出発予定日の一週間前から天気予報を注視していた。信州側と黒部側の、麓の天気を参考にするしかないのだが、折しも発生した台風22号の影響で、雨と曇の印が並んでいる。予想も流動的で、十月五日土曜日、翌日曜日の天気予測は、日々変更されていった。そうして、漸く二日前の時点の予報で、週末の雨マークが消えたのであった。

気持ちが決まったので、あとはバスの座席を予約するだけであった。そうして、インターネットに接続してアルピコ交通のサイトを覗いたら、白馬八方への夜行バスは既に満席になっていた。熟慮の末の決断であったが、計画は呆気なく白紙に戻された。

土曜日の夕刻に現地へ達し、安宿に泊まる案なども考えた。昼行バスは、夜行バスに比べて廉価である。夜行バスが割高になっているとも云える。安宿の目星は付いたが、なんとなく気乗りがしなかったので、日曜日の午前中に、白馬に到達する案を考えた。未明に最も早く出発するJRの普通列車を乗り継ぎ、白馬駅に向かうのが最善策で、午前十時四十分くらいに到着する。安宿案の場合は遠見尾根から五竜岳、翌日に唐松岳へ向かう時計回りにするつもりでいたが、当初の思惑通りに、八方尾根から唐松岳、翌日に五竜岳を目指すことにした。

初めての後立山連峰。其の名峰のひとつである五竜岳が今回の目標である。順序として、最後に登るピークが五竜岳と云うのは、適切なコースだと思える。ゴリューと云う響きが、アルプスに行くのだと、気分を昂ぶらせてくれる。以上が出発迄の逡巡である。中央本線を高尾、大月、甲府、岡谷と乗り継ぎ、初めての白馬駅からバスと索道を乗り継いで、八方池山荘に立ったのは、正午に近い時刻であった。

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リフトの途上から、登るにつれて山上からの霧が覆ってくるのが窺えた。天気予報は其の後も変化していて、此の状況は織り込み済みである。翌日の晴天を信じて、八方池に映る白馬三山の有名な景観は既に諦めている。第二ケルン迄、なだらかな遊歩道を敢えて選ばず、尾根上の登山道を歩く。周囲はガスで真っ白だった。人が少ないと踏んで登山道を選んだが、下山に使う観光客が存外に多い。面白味のない木段の道を、実直に歩き続けた。乗り物に長時間揺られていた所為か、足取りは其れ程軽くは無い。勿論、テント泊装備の重いザックの負荷は、今日も変わりが無い。

いよいよ霧が深くなって、行楽客の群れが分散して閑散としてきて、砂礫状の傾斜の向こうに、薄っすらと第二ケルンの尖塔が見えてきた。其れを過ぎると、瓦礫場の登りになって、八方ケルンが現われた。行楽客の数は減ってきたが、本格的な登山装備の下山者が、ケルンの周辺で思い思いに寛いでいる。霧に覆われた斜面は、這松の緑に混じって、紅い植物が散見できる程度で、此れが八方尾根の紅葉なのかと、首を傾げたくなるような殺風景さであった。

眺望は次第に少なくなり、茫洋とした広場に多くの人々が屯している。八方池に下る遊歩道に、多くの観光客がゆらゆらと移動しているのが見えた。私は、未だ標高二千メートルに居ると云う実感が湧かない儘、霧の中を歩き続けていた。

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コメント

僕の場合、お昼に登山口に着いて、夜の18時、暗闇、雷鳴の中で小屋にたどり着きました。
小屋泊なら怒られますがテントだったので、「お~よく来たね~」と主人に褒められ、苦労が報われました。

テント泊は到着時刻を気にしなくてもいいみたいですよ。
夜中に到着する人もいたし…。
僕は早く帰りたい時、0時出発ってのも何度もやりました。
テントならではですよね~。

冬テントやりましょうと言いつつ全然実現できないのはどういうことっすか~?(笑)
奥武蔵が楽ちんだからね~。

霧の初日、先行き不安ですね。

それにしても、奥穂高岳や槍ヶ岳の登頂がまだなのに、いきなり五竜岳っていう発想がすごいね。
ゴンドラ使えば楽っていうのは、目のつけどころがグッドです。
テント派とってはありがたいっすよね~。

ひさかたのコメントだ~(笑)ありがとうございます。

テントは時間気にしなくても大丈夫なんですか。そういうもんなんですね。
怒られるのもヤですが、ごくごく自然に、北アルプスで暗闇の中を歩くという行為にビビッてしまいます。

冬テント、いざ寒くなると億劫になってしまいますね。
オノレに鞭打って、今シーズンはトライしてみたいところです。
奥武蔵の最深部で張ってみようかな。
かずさんもよかったら是非(笑)

ホントに、なぜあれほどまで拘っていた奥穂高へ行かずに五竜岳なのかと、自分でも訳がわかりません。来年のお楽しみですね。

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