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水根沢・沢登り初心者部隊の蹉跌

沢靴を履いて川の中に入ると謂う感触をとりあえず経験して、さてこれからどうするのか。自分でもはっきりした考えは無かった。小下沢をkz氏と歩いた其の日の晩に、登山詳細図世話人氏宅で開催された、高尾山詳細図改訂版完成記念の酒宴に参加した。其処で、酔った勢いで世話人氏にいろいろ質問して、沢登りの話を聞かせて貰った。沢登りの魅力と、推奨ルートの話を聞いていると、私の裡に在る欲望も膨らんでくる。初心者は水根沢辺りから始めるとよい。簡単で美しいルートである。そう世話人氏が云うので、酔っ払いの私は、是非引率して戴きご教示を賜りたいと、甘えたことを云った。返す刀の勢いで、同席のC氏とT子さんに対して唐突なオルグ活動を開始した私は、沢登り初心者部隊を構成することに成功したのであった。私、C氏、T子さんに、世話人氏の妻、M子さんを含めた四人の素人が、無謀にも初めての沢登りを敢行することになった。

2013/7/7

水根キャンプ場(10:00)---水根沢遡行---二番目のゴルジュ帯で頓挫---大高捲きで水根沢林道にエスケープ---水根キャンプ場(12:30)

Mz1

奥多摩駅でT子さんの車に便乗し、氷川から青梅街道を登る。奥多摩湖の直前で山道に分け入り、水根沢キャンプ場の駐車場に着いた。水根沢谷は、倉戸山から鷹ノ巣山に至る榧ノ木尾根と、六ツ石山から水根に南下する尾根の間に深く長く流れる沢である。水根沢林道と謂う名の山道が、六ツ石山側の斜面をトラバースするように、石尾根の水根山へと続いている。

Topo山の地形を脳裡に描き、キャンプ場を覆う山なみを眺めるが、初めて本格的な沢登りを始めると謂う緊張感で、私は、北も南も判らない、そんな状態だった。ハーネス、カラビナ、下降器などを世話人氏から貸して戴き、覚束無い手つきで装着する。一本のロープに輪を作る方法、カラビナとロープで、木に固定する方法、世話人氏が実演して呉れるが、初心者部隊は、茫然と其れを眺めるだけであった。

猛暑の続く真夏の週末だった。水根沢キャンプ場に、沢登りのパーティが続々とやってきて、水根沢に入渓していく。世話人氏が引率する初心者部隊は、駐車場に到着してから随分時間が経ったが、なかなか入渓できないでいた。ロープ確保の講習は、埒が明かないので中途で切り上げ、我々は漸く水根沢谷へと入っていった。

昂揚した気分の儘、沢の水に浸かった。明るい広場から、岩が聳える狭い渓谷へと入っていく。心の準備が出来ない儘、いきなりゴルジュ帯が現われる。世話人氏、M子さん、T子さん、私、C氏の順で、一列になって遡行していくことになった。小さな滝の下に着くと、世話人氏は、少し思案してから、するすると岩を登っていく。そして、滝の上で、素人たちを確保するために、長いロープをザックから出して、準備する。我々は、其れをじっと待っている。ロープが下ろされたら、ひとりずつ、ハーネスの前面に装着したカラビナにロープを引っ掛けて、其の命綱の張力を確認しながら、岩を登るのである。

小さいと云っても三メートルはある滝が、間断なく現われた。釜の深さは小下沢の比ではなく、胸まで浸かる箇所も珍しくなかった。滝の側面にある岩崖に向かって、半ば泳ぐようにして辿り着く。岩の手掛かりを探すのに、時間が掛かると、内心の焦りが顕在化して、ますます判らなくなる。逡巡していると、ロープのテンションが強くなっていく。世話人氏に半ば引っ張られるようにしながら、岩を必死に掴んで登っていった。

最初のゴルジュを終えて、其れでも深い谷間の流れを、歩き続けた。峻険な岩崖が、苔むした岩となって、沢を形成している。渓谷の美を、完璧な位置から鑑賞しているような気がした。暫く快適に歩いていたら、先行していた遡行パーティに追いついた。二番目のゴルジュ帯に差し掛かったようで、難しい滝があるようだった。複数のパーティが、其処で渋滞していた。暫く立ち往生しているうちに、後続のパーティも追いついてきた。狭く蛇行しながら流れ落ちる滝の釜に、大勢の人間が集まっているのが、不思議な光景だった。

Mz3

遡行図を眺めて、おおよその距離感を掴もうとするが、深い渓谷の底に居ると、自分が何処に居るのかと謂う思惟自体が、どうでもよくなっていくような、そんな気がした。滝の数を数える余裕は無かった。問題の滝に、世話人氏が難渋しながらも登り、ロープをセットして、M子さんを引き上げようとするが、激しい水流の圧力で、どうしても登ることができない。暫くの間、停滞した儘だったが、やがて世話人氏が、遡行を諦めて登山道に転進すると決断した。

気がつくと、周囲には夥しい数の人が集まっていた。我々は、左岸に上がって、険しい斜面を這うようにして登っていった。大勢の人が居るので、落石をしないように注意せよと、世話人氏が云った。云われた直後に、私は漬物石のような大きな石を踏んでしまい、其れがゆっくりっと転がっていった。啞然として、声が出なかった。ラーク、と謂う絶叫を、世話人氏が放った。石は幸い、途中で停まったので、私は安堵しながら、跪くようにへたり込んだ。自分の技量が、自分で思っている以上に拙いことを思い知って、恥ずかしかった。

気がついたら、眼下は目が眩むような高度感だった。通常の登山で、此のような斜面を登ることは有り得ない、そんな気がした。沢を登り詰めることができない場合、退避するのも命懸けであると謂うことを知った。登山道に辿り着き、全員が茫然とした感じで立ち尽くしていた。山腹を抉ったように細い登山道だったが、其処が水根沢林道だった。其の安定感は、地べたに頬ずりしたくなるくらい、有りがたかった。

下山の途中、盛り上がった尾根の突端で、休憩した。世話人氏が、携行してきたおでんを温めて振舞って呉れた。温かいものを食べて、漸く全員が我に返ったような気分だった。沢を遡行して、胸まで水に浸かった身体は冷え切っていたが、尾根の上では、風が心地よかった。そうして、水根沢林道を辿って下山するのだが、信じられないくらい、あっという間に、キャンプ場へと降り立ってしまった。

Mz2気が遠くなるくらい、緊張感とともに遡行した水根沢だったが、進んだ距離は、ほんの僅かなものだったようである。後から確認すると、遡行していたのは二時間にも満たなかったようであった。自分が何処を歩いているのか判らない儘、目の前の滝や岩を攀じ登る行程は、想像以上に時間の感覚を失ってしまったようで、そんな自分の感覚の曖昧さにも驚きを禁じえない。

水根沢キャンプ場の駐車場に戻って、濡れた衣服を着替えた。全身が弛緩していて、緊張感が、解けるようにして消え去っていった。途端に、灼熱の太陽の陽射しが、突き刺さるように、降り注いできたような、そんな気がした。

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コメント

ななめ様

二度の沢登りお疲れ様でした。

まだまだ暑いので、また行きましょう!

西丹世附権現踏査もお疲れ様でした。

その後の紀行文も楽しみにしています。

失礼致します。

投稿: 世話人 | 2013年8月 7日 (水) 09時14分

世話人さん、

その節はありがとうございました。
貴重な体験でした。

西丹では御心配お掛けしてすみませんでした。
よい地図になることを祈念しております。

投稿: 七目 | 2013年8月14日 (水) 09時49分

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