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桜島・春田山から中岳の断崖を眺める。

桜島は大正の大噴火以来、大隅半島から僅かに陸続きとなっているが、鹿児島港から終夜運行している市営のカーフェリーで簡単に渡れるようである。鹿児島は妻の生家があるので、此れ迄随分訪問したが、桜島に上陸したことがなかった。今回も親戚付き合いの間隙を縫って何処かの山に登りたいと考えていたが、開聞岳に登る程の時間が無い。私は、早朝の市電に乗って、鹿児島港に近い水族館口で下車した。西日本の猛暑は今日も続くと予報にあり、朝の七時前だが直射日光が厳しく降り注ぐ県道を渡り、フェリー乗り場の建物に入った。休日の所為か、場内は閑散としていた。切符売り場も改札も無い。勝手に乗船して、船代は桜島港で支払うと謂う方式である。料金は150円。隣の駅に行くような気軽さである。

2013/7/21

桜島病院バス停(7:50)---薩摩赤水---八谷橋---湯之平展望所分岐---春田山---430mピーク付近の築提---薩摩赤水---大正溶岩地帯---桜島港(12:30)

Sj1_2オープンデッキの甲板から、徐々に大きくなってくる桜島を眺めていた。冷房の効いた船室に乗客が集まっているので、誰も居ない。船が鹿児島港を囲む堤防を抜けて、海に船出したと思ったら、呆気なく桜島港に着岸した。閑散とした広場に出て、バス乗り場を探していたら、タクシーの運転手が近寄ってきた。何処に行くかと訊かれたので、桜島病院と応えたら、乗り場を教えて呉れた。

大隅半島の桜島口に向かうバスの乗客は三人だけで、出発したら直ぐに大正溶岩の殺風景な地平に向かっていく。バスは快速に飛ばし、私の目的地である、薩摩赤水は二つ目のバス停だったが、其れ程直ぐに着くとは思わず、降車合図のベルを押し忘れてしまった。慌てて次のバス停で降りたら、桜島病院前と云うバス停だった。私は、国道224号線を、来た方角に戻って歩き始めた。

昭和三十二年の大噴火以来、桜島への登山は禁止されている。桜島の御岳は南北に広がり、北岳、中岳、南岳のピークが並ぶ。そんな、横に広い山容である。鹿児島市内から、或いは桜島と併行して南に延びる薩摩半島から、対岸を眺める桜島御岳が、周知の秀麗な山容である。現在噴火を繰り返しているのは南岳の東に在る昭和火口なので、黒い霞が懸かっているように見えるのは、市内から見ると凡そ向かって右側からである。其れに対して、鹿児島空港からハイウェイバスに乗って市内に向かう途中に眺望できる桜島は、北側から見えるので、まるで端整な三角錐の独立峰に見える。其の姿もまた美しい。

Sj2_2観光客が桜島の峰に近づけるのは、湯之平と云う標高373mのピークに在る展望所迄である。溶岩や噴火による噴出物に塗れた険しい地形を縫うようにして、観光客がドライブできる車道が湯之平展望所を目指して周回している。私は其の車道を歩いて湯之平に向かって歩き出した。其の基点が赤水と云う集落なのである。大正溶岩の広がる一部に集落がある。湯之平に向かって歩いて行くと、点在する民家の中に、小さな東屋が密集している不思議な場所があった。近づいてみると、其れは墓地で、墓石ごとに小さな屋根が設えてあった。火山灰が降り注ぐ桜島の集落の、独特な光景だった。其れを過ぎると、赤水の氏神である愛宕神社が見えてきた。

道路は神社を過ぎて、大きく迂回しながら勾配を稼いでいく。やがて錦江湾を望むようになった。よく晴れた空だったが、薩摩半島の彼方は陽炎のように曖昧な感じで広がって見える。車道歩きだが、歩行者道は広く取ってあるので、窮屈な感じはしない。尤も、車道を通る車の姿は全く無かったので、開放感に浸りながら、私はゆっくりと歩を進めた。溶岩帯に繁る樹林を見下ろしながら、三回、四回と道は大きく切り返すようにしてカーブしながら勾配を上げていく。愛宕神社の由来と思しき愛宕山の在る地点に到達したが、其れらしきピークは確認できなかった。

遮るように伸びていた尾根を捲いていくように、愛宕山付近から車道は大きくカーブして切り返していった。尾根の裏側に出たら、対岸に、直ぐ近くに湯之平展望所の建物が見えた。道路は其処に直進することなく、東方に向かって真直ぐ伸びていた。真正面に南岳が聳えていて、夥しい黒煙が空に吹き上がっている。爆発したのだ。噴煙は大きく、やがて照りつけていた強烈な陽射しを隠していった。道路が部分的に、陽蔭になっている。活火山の、此処迄巨大な噴煙を間近で見たのは、初めてかもしれない。そう思った。

Sj4_3鹿児島地方気象台に拠る、桜島の噴火の記録を後日確認したら、此の日は7時36分に最初の爆発があり、8時30分迄、断続的に六回の噴火が起こっている。私が見たのは、8時10分の爆発だろう。「弾道を描いて飛散する大きな噴石」が五合目に確認され、場所は「昭和火口より500から800m」と記録されていた。

大噴煙に圧倒されたが、轟音のような爆発音が聞こえないのが少し残念な気がした。不謹慎な思惟なのは百も承知だが、此れ程巨大な噴煙が巻き上がっても、何も聞こえないのは不思議だなと思った。どおんと音がして、地面がぴりぴりと震えて、慄きながら桜島を見上げる、そんなイメージが、勝手に私の中で熟成されていたのだった。私は、車が一台もやってこない静かな車道を、黙々と歩き続けた。

桜島御岳の前衛とも云える寄生火山の、引ノ平を眺めながら車道はふたたび北にカーブした。錦江湾の眺望が、さらに遥かに広がる。溶岩の瓦礫で形成された尾根に逆らわずに、舗装路は緩やかに上昇しながら続いている。標高255mピーク地点で、折り返すように右に旋回すると、南岳がどんどん近づいてくる。長い直線の坂路が終わり、ふたたびS字のカーブを描いて、八谷橋を渡る。大きな谷だが、勿論涸れ果てている沢である。湯之平展望所が目の前に現われた。手が届きそうな程近いが、私と展望所の間には、断崖の底が在る。彼岸と此岸の間に、溶岩帯に繁茂する強靭な森が広がっている。車道は徐々に北東方向に、展望所から遠ざかるようにして続いていた。

いよいよ桜島火山群を望む限界地点に近づいてきた。私には深謀遠慮が有る。観光道路の行き着く先は湯之平であるが、地形図を見ると、直ぐ傍に、同じ寄生火山の春田山が在る。標高373mの湯之平よりも少しだけ桜島御岳に近い、標高408mの溶岩ドームである。私が現在歩いている地点から、間もなくして細い車道が分岐している筈であった。其処に行ってみようと思う。

Sakurajima_2

分岐点は間もなく現われた。一般車輌が迷い込まないように、左手に湯之平展望所の道標が在った。其れを黙殺して、私は右に分かれる舗装路に進入した。繁茂した樹林の枝打ちをしている車輌が停まっていたが、無人であった。鬱蒼とした林道は直ぐに終わり、空が開けてきたなと思ったら、左手に小さなゲートが現われた。金網のゲートは車輌の進入を拒絶しているが、両脇の石柱の傍から、人は簡単に通れる。石柱にプレートが在り、京都大学防災研究所、桜島火山観測所、そして、ハルタ山観測室と記されてあった。

施設の敷地へと続く道を見上げる。春田山は、この敷地内のこんもりと盛り上がったピークのようだった。私はゲートの横から其処に入っていった。春田山のピークに登る為の行動なので、もしも観測所の関係者に咎められたら、釈明しようと考えた。舗装路が山を捲くようにして頂上に伸びている。登りきったら、観測所の白い建物が現われた。振り返ると、湯之平展望所の溶岩ドームを見下ろす展望が広がっていた。私は、画策が成功したことを知った。

Sj6建物の横を廻って、観測機器が設置してある広場に出たら、真正面に、中岳が尖塔のように屹立していた。思ったよりも近い感じがした。南岳、北岳と、セットで桜島御岳を眺めるという感じではなかった。中岳の直下に深く抉れて崩壊した岩崖が、剥き出しになって落ちている。南岳の噴煙は消えていた。灼熱の太陽の下で、私は茫然と其れ等を眺めた。

観測所の周りを歩いたが、人が出てくる様子は無かった。敷地内に車が無いから、誰も居ないのだろう。春田山のピークに登った、と謂う感慨は然程感じることはできなかったが、湯之平展望所ではなく、ハルタ山観測室から眺めることができたと云うのが、嬉しかった。

ハルタ山観測室のゲートを出た。私は満足して、下山の途に就こうとしたが、地形図を眺めると、直ぐ傍に車道が分岐して、さらに火山へと近寄っていく道が在るのが気になった。春田山の東に430mのピークがある。春田山よりも22m程高い山の脇迄、車道は続いているようであった。430mピークと春田山の鞍部を貫く舗装路を、私は歩いていた。程無く、右手に道が分岐しているのが見えた。其処には、木製の大きなゲートが有り、当然のことながら厳重に閉じられていた。

ゲートの両側には先程とは違って、人が通れる隙間が無かった。少しの間思案してから、ゲートの木枠に足を掛けて、其れを乗り越えた。立ち入り禁止、と謂うような表記は無い。其れだけを拠り所にして、430mピークに向かって伸びていく舗装路を登ってみることにした。道の左手は深い谷が沈んでいる。振り返ると、鹿児島市内ではなく、姶良方面の景色が広がった。桜島の断崖の向こうに、海の青さが深みを増している。そんな景色だった。

春田山から眺めた中岳の威容が、さらに間近に迫ってくるような気がした。車道はひたすら真直ぐに勾配を登り続ける。登りきったなと思ったら、目の前には青空だけが広がっていた。中岳から深く抉れて切り落ちる谷を、巨大な築提が堰き止めていた。岩塊の崩落を堰き止めるためなのだろうか。乾ききった大地に、巨大な人工物が聳えていた。

周囲は木も土も刈り払われていて、舗装路は築提で終了していた。遮るものが何も無いから、錦江湾と、鹿児島市内の眺望が、何処迄も見渡せる。其れは何とも云えない無機質な光景だった。振り返ると、桜島の御岳が、岩崖となって迫ってくるように近い。その気になれば、中岳に登頂できそうな、そんな錯覚をしそうなくらいに、近い。茫然と立ち尽くしていたら、眩暈がしてきた。灼熱の陽光が、容赦なく降り注いでいる。私は、踵を返して、ゆっくりと、下山の途に就いた。

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