« 伊豆ヶ岳東尾根を行く | トップページ | 西吾野駅周縁を巡る尾根・虚空蔵山(後編) »

西吾野駅周縁を巡る尾根・虚空蔵山(前編)

Photo



2013/4/6

西吾野駅(7:15)---山ノ神---340mピーク---三社峠---410mピーク---418mピーク--- 「パノラマコース」登山口---石地蔵---高山不動---虚空蔵山---志田---三社峠---西吾野駅(13:30)

1

岩崖の切り通しを縫って走るローカル線の電車が、山間から抜け出ると、小さな谷間の集落が現われて、静かな駅に停車する。ふたたび動き出した電車は、谷間から山へと分け入って、やがて隧道に吸い込まれていく。幾つもの山を越えて、風景が次第に抑揚を失うかのように、緑色の樹林が全てを覆い尽くそうとしている。先程遠くに去って行った筈の国道が、何時の間にかこちらに近づいてきて、しばらく併行して走り、また何処かに去っていくように、遠ざかっていく。電車はまた隧道に突入していった。

此の半年の間、足繁く通っている奥武蔵の、西武鉄道の車窓から広がる風景を改めて記すと以上のような感じである。中央本線でも青梅線でも然程変わり映えしない山間の風景だが、懸命にモーターを唸らせて、山奥へと走っていく西武線の小ぶりな電車は、古色蒼然とも違う風合いを感じさせる。ヨーロッパの登山電車とまでは言わないが、よく出来たジオラマの中に配置された山行き電車が、訥々と山間を走っている風景が想像できる。其れは、まるで空から俯瞰して見ているような気持ちになることができる。

山深くなっていく途上に、ぽつんと在る西吾野駅に近づくと、小さな隧道を通り抜ける。鉄路は山肌に沿って忠実に走っている。山の尾根は、其の儘北東へと連なり、高山不動尊のある山塊に続いているのである。隧道の手前で車窓から見える、山腹に小さな鳥居が在るのを見つけて、前から気になっていた。鳥居には、山之神と記してある。其処から入って尾根に乗り、歩いて行きたい。kz氏にそんな計画を伝えたら、面白そうじゃないの、と云って、同行して貰うことになった。線路際から山に登り、高山不動、関八州見晴台、そして飯盛峠へと歩くことにする。

4

週末に近づくにつれて、天気予報は剣呑な警告を発し続けた。関東の広範囲で暴風雨になる。不急不要の外出を控えよ。其れで計画は断念したのだが、前夜になって雨雲レーダーを見てみると、暗雲は未だ西日本にあるようなので、どうしようかと迷った。kz氏に打診すると、早く出掛けて早く降りれば大丈夫なんじゃないの、と云った。飯能の天気予報は、土曜日の午後三時から、雨になると伝えていた。だから、行くだけ行ってみようと謂うことになった。

西吾野駅から車道を下り、喧騒の国道に出る。吾野方面に引き返し、暫く歩き続けると、線路と国道が交差する。其処から道を外れて、線路脇に入っていくと、山之神が見えた。鳥居を潜ると、石を積み上げた階段が急斜面に設えてあり、少し登った処に、小さな祠が在った。見上げると、直ぐ其処に尾根の突端と思しき空の明るさが見える。急斜面には踏跡は無かったが、ひと登りで尾根の上に立った。吾野小学校と線路を分断する小さな里山の尾根である。

2

尾根の上には、明瞭に道筋が有った。送電鉄塔の為の巡視路であるが、尾根の上を伝って行く道は長閑で、登山道と云われても差し支えはない。我々は其れに準じて、進路を北に向けて歩いていった。気になる天気だが、今の処は平穏で、曇り空から僅かに陽光も感じることができる。山椿が所々に咲いている道を進み、大きな岩が重なる、少し傾斜が急になった坂を登りきると、程無く最初のピークに達した。標高340mには、送電鉄塔が窮屈そうに立っていた。

道は尾根の上を忠実に続いていた。ピークを越えるとふたたび鞍部に向かって急降下し、そして登り返して行く。右手の方角は三社集落方面で、時折風景が広がるが、左手は鬱蒼としている谷間が暗く広がっていた。直ぐ向こうに西武鉄道が走っているとは思えない。登り調子がひと段落すると、瘤のように突き出た処に出た。右手の、東方が開けた明るい場所で、思わず小休止したくなる処だった。木の幹に、平仮名文字が書いてある板が打ち付けてある。吾野小学校の生徒たちは、此の裏山でオリエンテーリングのようなハイキングを愉しんでいるようである。地図を凝視すると、山之神からの尾根から、三社峠を旋回すれば、丁度小学校を囲む山々を踏破できるようであった。

左手の、薄暗い谷に、控えめだが分け入る道が在った。木の枝に赤いテープが巻いてある。尾根が西に派生している。恐らく、此の道を下って行けば、西吾野駅手前の隧道の上に至る尾根の筈である。やはり道はあったのだ。此の昂揚する気分は、読図の登山をしていないと解って貰えないだろうと思う。眺望も無い低い山を、地図に照会しながら、現在位置を推し量りながら歩く。此の行為に飽きることが無いのは、自分でも不思議に感じる。

少し歩いた先に、三社峠へと尾根が派生する410mピークへの傾斜が現われた。其処に、三社峠と書かれた小さな指標があった。ピークの手前を捲いて、峠に下りていく道が右手に分かれていた。指標に小さく、みやしろ、とルビが書いてあった。迂闊なことに、此れを見る迄、私は三社峠を、さんじゃ峠と呼んでいた。自分の脳裏にかなり定着してしまった呼び名なので、みやしろ峠を頭の中で繰り返しながら、三社峠へのトラバース道を下っていった。

3

折角の尾根上から外れて三社峠に向かう深い理由は無い。捲道で三社峠に立ち寄って、帰路は尾根に乗って410mピークに復帰しようと思っただけである。しかし、捲道は思いの外痩せていて、用心しながら進む。西丹沢でロープに宙ぶらりんになって以来、私はトラバース道への猜疑心が消えなくなってしまったから、もう読図の余裕も無くなってしまった。

山肌の道が徐々に左にカーブして、谷間へと降りていく。410mピークから三社峠へと延びる尾根を見上げながら、其の窪んだ溝に沿っていった。程無く見覚えのある三社峠に到着した。kz氏は此れが初めての訪問なので、わざわざ迂回してやってきた甲斐がある。何の変哲も無い鞍部だが、妙に落ち着いた雰囲気のある三社峠で、暫く休憩した。

本来の尾根に戻ってから、改めて410mピークを越えて、ふたたび下り、いよいよ鬱蒼とした鞍部に踏み入れた。此処から地形図の上に標高が記されている、418mピークへと登る。410とか418などと云っていると、何の起伏もないように思うが、其れを登りきってみると、西北の空が明るく開けている。徐々に山の奥へと進んでいるのだ。そう思った途端、遠くに電車が走る音が聞こえてくる。其れで現在地が、未だ西吾野駅から程近いことを思い知る。

道はいよいよ明瞭で、周囲は間伐で更に開放感を醸し出す森の中、と謂った雰囲気になった。西武鉄道と併行して連なる尾根の上を歩いている。徐々に標高を上げながら進んでいる筈なのに、駅から殆ど離れていないと謂うのが、不思議な遠近感のように思えた。連綿と続いていた、なだらかな尾根の道は、徐々に側面に逸れていく気配を見せてきて、唐突な感じで広場のようなものが現われた。其処へ押し出されるように降り立つと、ベンチと道標が前方に見えた。

西吾野駅の周縁を巡る、小さな尾根歩きは、此処で漸く終わったようであった。空は相変わらず不明瞭に曇っている。登山道の入口に人影は無かった。其の静けさが、却って不自然なような、そんな気がした。

« 伊豆ヶ岳東尾根を行く | トップページ | 西吾野駅周縁を巡る尾根・虚空蔵山(後編) »

奥武蔵」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1243257/51653683

この記事へのトラックバック一覧です: 西吾野駅周縁を巡る尾根・虚空蔵山(前編):

« 伊豆ヶ岳東尾根を行く | トップページ | 西吾野駅周縁を巡る尾根・虚空蔵山(後編) »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

today

  • one day

twitter

  • naname's twitter
無料ブログはココログ

最近のトラックバック