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細川橋から二本杉峠・登山詳細図踏査隊と歩く(後編)

2012/12/19

細川橋バス停(8:20)---二本杉峠---地蔵平ルート(40メートル先で崩落箇所の為引き返す)---760mピーク---二本杉峠---千鳥橋---浅瀬橋---世附キャンプセンター(14:30)

Nishitanzawa3

二本杉峠に戻ってきた。此れで三度目であるから、鬱蒼と暗いこの鞍部にも、何故か親近感を覚える。地蔵平への踏査が暗礁に乗り上げた結果、我々は役割を失ったので、もう下山するしか方策は無い。世話人氏の指示では、地蔵平に抜けられなかった場合は、NR、KF班が辿る千鳥橋へのルートを追って、速やかに下山するように、と謂うことであった。嘆息と共に、私は権現山方面に聳える屹立した尾根の方を眺める。どうせ丹沢湖に戻るのならば、此の尾根を歩いて行きたいものだと思った。

「勝手な行動すると怒られちゃうからなあ…。予定通りに下りるしかないでしょう」
学級委員みたいな口調で、C氏が云った。

地形図を見れば一目瞭然だが、西への登山道は、深い谷を急激に下りていくものだった。湿った枯葉を踏みしめ、ジグザグに切ってある道をテンポも良く歩いていった。やがて、巨岩が現われたら、谷が合流する地点に着いた。其の向こうの尾根に渡るために適当な進路が見当たらず、岩場を慎重に下って行く。そして、陽当たりの良い尾根の山肌に取り付いた。其処からは、枯葉が埋もれているので、踏跡を確認しながら進まなければならない様相に転じた。トラバース道は、徐々に険しくなっていく傾斜に、貼り付くようにして続いていた。そして、道は下降ではなく、忠実に尾根の裾を捲いていく。相対的に、沢が徐々に遠ざかっていった。下を見ると、目が眩むようである。

踏跡を、枯葉を掻き分けて判別し、一歩ずつ緩慢に進む。足場其れ自体が傾き始めてきていた。枯葉は随所でうず高く積もっている。脚で掻き分けるのが困難になってきたので、ロードメジャーを箒のようにして、落葉を掃きながら、手探り、ではなく、足先で探りつつ前進する。私の心裡に、冷たい風が吹き抜けてくる。此処で足元が崩壊したら、間違いなく死ぬのだろうと思った。

急峻の尾根の裾で、いよいよ進路が抉られた崩壊地点に突き当たった。尾根の上方を迂回して行けば、なんとか其の先の踏跡に辿り着けそうな距離ではあったが、踏み込んだ途端に崩落するのではないか、と謂う恐怖で、全身が凍りつくような気分だった。私は振り返ってC氏を見た。ポーカーフェイスである彼の内心は窺えないが、逡巡せざるを得ない場面を共有していることは確かである。暫く我々は立ち止まった儘になった。

沢に下りちゃいましょうか、とC氏が云った。気がつくと、眼下の谷は然程の距離感では無くなっていた。実際、此のトラバース道に張り付いている限り、何時崩落してもおかしくない、危険な道を歩き続けなければならない。だがしかし、私の知る拙い登山のセオリーが脳裏に明滅する。登山道を放棄して谷に降りると謂う行為は危険性が高い。逃げるなら尾根の上である。其れは遭難した場合のことだけれども、何れにせよ、沢が高低差無く本流まで続いている確証が無い。私は、喉がカラカラになったような声で、其れはやめときましょう、と云った。

Nishitanzawa4

崩落箇所の砂地に、蹴りこむようにして、エッジが利くように踏み固める。石橋を叩くと謂う比喩が相応しい行為を繰り返し、やっとの思いで難所を通過した。踏跡がしっかりとした処迄、這うようにして移動した。へたり込んで、改めて谷底の方を眺める。集中力が摩滅された儘、虚ろな気分で後方を振り返る。崩壊箇所を、トレードマークの一眼レフカメラを襷掛けにして、C氏が慎重に渡ってくる。私の体たらくとは対照的に、立ち居振る舞いが妙に安定している。私は其れで自分の未熟さを実感する。恐怖心が、肉体を容易に圧倒してしまうという実感が、私の気力を漸減させていく。

一体、何処迄こんな状況が続くのかと、意気消沈しながら歩き続けた。結果的には、危険な箇所はもう現われなかった。西南に突き出る尾根をいよいよ迂回して、北へと進路が変わると、大又沢の瀬音が感じられてくる。更に尾根を捲き続けて、東へ西へと方向を変えながらも、砂礫状になってきた道を歩く。山肌に沿って大雑把な畑が広がってきた頃、漸く安堵することができた。普通に歩くことができると謂うことに、こんなに有難味を感じたことが無い。舗装された道に出たら、古びた千鳥橋に到達した。

意外なことに、千鳥橋には、NR氏とKFさんの姿があった。随分先行していた筈だが、やはり、あの崩落箇所で難渋したのだなと思った。状況を伺ったら、我々が逡巡していた地点の付近から、彼らは沢に降りての下山を試みたのだと云う。沢の下りはやはり容易ではなかったようで、トラバース道に戻ったそうだが、来た道を戻るのではなく、下っていた途上から無理矢理尾根に辿り着いたらしい。其の行程は簡単なものではなかったようで、KFさんの表情は、憔悴していたように思えた。NR氏は、飄々として、大したこではない、というような表情であった。恐怖に対する精神力の強さがあるのだろう。

成果の実感を掴めない儘、丹沢湖の民宿に帰ることになり、四人で延々と続く林道を歩く。時刻は未だ午後になったばかりなのに、山峡の陽射しは少ないから、黄昏のような雰囲気に感じた。川の流れの音だけが、徐々に風景を支配していくような、そんな気がした。

補記

C氏のblogによる記事

「細川橋から二本杉峠、千鳥橋」

同じ日の、世話人氏の踏査記録

「西丹沢登山詳細図 第一回集中踏査」

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