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ユガテ・スカリ山・深沢山(中編)

Yugatesukari



2012/12/1

Yugate3


東吾野駅(7:30)---吾那神社---雨乞塚---橋本山---ユガテ---エビガ坂---スカリ山---沢山峠---深沢山東峰---深沢山西峰---水晶山---愛宕山---武蔵横手駅(15:00)

虎秀やまめクラブにより整備された「飛脚道」が、新田からの正規ルートに合流した。其処は四辻になっていて、方角通り右折して暫く歩くと、畑の広がる明るい場所に出た。漸くユガテに到着した模様である。畑は鳥獣害防止や、単に敷地区分の意味だろうか、縦横に網が張ってあり、遠くには立派な民家が建っているのが見える。

「ユガテって、こんな処ですか」私は失望を隠すことができない。
「春の、桃の花が咲く頃がいいんだよ」kz氏がユガテを庇うように釈明する。
「其れで、桃源郷っていう訳ですか」少し、嫌味な感じを漂わせつつ、私は嘆息しながら呟いた。

ちょっと期待し過ぎたんじゃないの、と云ってkz氏は笑った。私も、字面の通りに桃源郷を想像した訳ではないが、ユガテは、あまりにも人工的な物体が散見しているし、巨大な高圧送電線の鉄塔が聳えるように立っている。「山上の桃源郷」とは、誇大広告も甚だしい、と謂うのが率直な感想であった。

Yugate2

ユガテの、希少な民家の敷地内を抜けて、崖の上の舗装路に出た。其れを横断して、山肌に沿う道に進入する。暫くして、ふたたび林道に出たが、また横断して山道に入り、緩やかなトラバース道を歩く。一般的なハイキングコースである。樹林帯の薄暗い道を歩き続けて、ひとつの尾根にぶつかるようにして乗り上げた。其処からは徐々に勾配を上げていく。今回のカタカナ山巡りに相応しい、エビガ坂迄はもう直ぐ其処である。エビガ坂は、と、kz氏が云う。薄暗い処にあるんだよね、と呟く。暗に、凡庸な処だから余り期待しないように、と謂う意味だろうと受け止めた。勾配が更に増したような気がした。そして、唐突に、登っている途上に指導標が現われ、エビガ坂と書いてあった。

ガイドブックにも小さくない表記で案内されているエビガ坂が、まさかこんなに中途半端な場所にあるとは。期待はしてなかったが、想像以上に詰まらない処である。そんな私の心中を見透かしたかのように、詰まんないでしょ、と、kz氏が笑いながら云った。少し離れた場所に、廃道らしき分岐があり、其処を指し示しながら、一応峠道のようにはなっているんだよ、kz氏がエビガ坂になり代わって弁明する。鎌北湖の毛呂山町、そして吾野、つまりは飯能との境界、分水嶺のような重要な位置にエビガ坂が在ると謂うことはなんとなく判る。エビガ坂にしたところで、私に詰まらないと云われても困るだろう。

進路を東に、鎌北湖方面に下ると、隆々と盛り上がっている尾根にぶつかる。鎌北湖への道は此処から直角に北へと方角を変えるが、我々が目指す処のスカリ山は、まさに此の尾根を、其の儘東へと登り詰めた処にある筈である。分岐に近づくにつれて、なんだか道がありそうに見えるな、と、kz氏が不安そうに云う。スカリ山と謂う札が掛かってます、と、分岐点に在る樹木に括り付けられた木片を見て、私も愕然とした思いで応える。道が在って道標もあって、何か困ったことがあるのかと、此の辺りは常識的に云えば奇妙な会話となってしまうが、我々の心境としては、スカリ山よ、お前もか、お前も手垢に塗れた山なのか、と、そんな気分なのである。なあんだあ、と、kz氏の慨嘆のような叫びが、虚しく響く。

とは謂うものの、スカリ山に踏跡が明瞭に在ったからと謂って、私自身は別段無念の念に駆られている訳では無い。しかし、道無き道の藪を漕ぎながら山を歩くのが好きなkz氏を誘ったにも係わらず、此れはと提案したユガテ迄の道は予想に反して整備されていたので、スカリ山と謂う無名の山に、此れで挽回できるかも知れない、と淡い期待を抱いていたのも否めない事実であった。詰まらなそうにしているkz氏に、やや肩身が狭い思いをしながら、私は飄々と、尾根を登り始めた。途中、鎌北方面が遠く望める箇所も在り、あっ、いい眺めが、とか、向こうは青空が見えてますよ、などと、気分を盛り上げるために、私は努めて前向きなことをkz氏に向かって云う。

地形図の等高線を見る限りでは、最初の急登が済めば、あとはなだらかな登りで登頂するのかと思っていた。しかし、実際は露岩の平坦の道の後に、多少のアップダウンが在り、簡単には到達しない。途中、山頂を捲く道も作られていて、山頂直下は険しい傾斜も在った。ひと登りで、435.1m、スカリ山の頂上に到達した。北面に開けた眺望が心地よい、こじんまりとした場所である。興覚めなことに、先客がひとり、のんびりと食事を摂っている。勿論先方も同じ気持ちであろうことは想像に難くない。軽く会釈をしただけで、会話も無い儘、我々も昼食の休憩を此処で過ごすことにした。

私はジェットボイルを組み立て、プラティパスの水を注ぎ、湯を沸し始めた。予め用意しておいたふたつのカップ麺の、ひとつをkz氏に差し出す。今朝の遅刻の、ささやかなお詫びで御座います、と、無礼なくらいの慇懃な口調で云う。kz氏は軽くのけぞり、まさか遅刻したから買ってきたの、と恐る恐る訊ねる。

「遅刻しているのにそんな余裕はありません。此れは当初から考えてのことです。謂わば見返りを求めない、無償の愛情と云っていいでしょう。しかし遅刻してしまったので、此れで勘弁してね、と謂う感じになってしまいましたなあ」

煙草を燻らせて、曖昧な色に広がる奥武蔵の空を見上げながら、呟くように、私は云った。

kz氏は、きょとんとした表情の儘である。ジェットボイルは瞬く間に熱湯を作り、我々は、黙々とカップ麺を啜る。いやああったまるねえ、と、kz氏が喜んで呉れたのはいいのだが、スカリ山の上空は、みるみるうちに鉛色に変わり、冷たい風が強く吹き始めた。不穏な気候の変化に、慌てて食事を済ませ、手早く撤収を始めた。

ふたりがザックを背負った頃には、雨粒が硬い音を立てて降り始めた。此れは雹だ、とkz氏が叫ぶ。瞬く間に其の勢いは増してきて、被ったフードの脳天に、ぱらぱらと氷の粒が打ち付けてくるのが感じられる。我々は、逃げるようにして、スカリ山の頂上から、去っていったのだった。

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