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日向山、天神尾根界隈・登山詳細図踏査隊と歩く(中編)

2012/7/18

Map1




登山口から山頂迄、距離を実測するのが役割で、途中、道標があったら区分するというだけのルール。『登山詳細図丹沢東部篇』の踏査で、日向山の山頂から、予定していた尾根が地主による通行止めと謂う事態に遭遇し、私とMNさんは梅ノ木尾根へと連なる山稜を歩いていた。双頭の小ピークを過ぎると、木段が下り始める。世話人氏の指示では、この辺りから南へ急降下して、日向薬師の傍の林道へと下りる筈だが、其のような道は見当たらない。ハイキングコースは尾根伝いに続いており、我々は其れに準じるしかなかった。

下りきると、四辻の在るコルへ下り立った。三方への道標は、南は日向薬師・薬師林道、西は梅ノ木尾根、そして北へ下りていく道には、弁天の森キャンプ場と記してあった。日向山から日向薬師への尾根に阻まれ(此れは昭文社に於いても実線で記されてあったのだが)、続く予定の尾根の道も発見できずに、よく整備された峠に居るものだから、一体、此の普通の道を降りて日向薬師に行ってよいものなのか、そして、弁天の森キャンプ場迄、明瞭に繋がっている、此の峠から北へ続く道を踏査しなくてもよいのか、我々はしばし考え込んでしまった。正確に云うと、前者は私の疑念で、登山詳細図ともあろうものが、こんな普通の道ばかり調べていていいのか、と謂う過剰な思惟で、後者はMNさんの、道があるのに調べないと、また二度手間になってしまう、と謂う実直な意思だと思われた。

Koru

今になって思えば、此処で南北に二手に分かれて、ふたたび引き返してきて、合流すればよかったのだが、結局、指示通りに日向薬師への道を、ふたりで下ることにしてしまった。道は日向山の中腹をトラバースしながら下る安全なルートだった。途中、稜線から膨らむ尾根を注視して、道が分かれていないか見ていたが、結局、山頂からの通行止めルートがあるのみだった。道を遮る紐は廃れていて、下から見上げると、うまい具合に直登できそうな道で、私有地だからと云って、何故通行止めにしているのか、理解に苦しむところであった。

直射日光が照りつける薬師林道の駐車場に到達し、我々は日向薬師の茶屋の在る休憩所で、しばし休んだ。暫くして、ふたたび来た道を戻るべく、駐車場の登山口に向かう。山蛭除去用の塩が据え付けられていたので、既に忌避剤を丹念に塗りつけてはいたが、さらにスパッツにすり込み、出発した。僅かな距離だが、折角下山したのに登り返すと謂う行為、其れ自体が疲労感を湧かせる。私は、予定通り歩けていないことに、何時迄も拘って居る所為か、曖昧な気持ちで歩いていた。

厚木市と伊勢原市の境界尾根は、くだんのコルから西へと連なっていて、昭文社の登山地図に於いては赤い破線のルートで記され、537mのピークから浄発願寺奥ノ院へと下っているようである。私とMNさんは、其の梅ノ木尾根を辿り、ふたつの小ピークを越え、途中の鞍部から、弁天の森キャンプ場の奥に下りていくと謂う予定だ。整備された木段が続き、400m迄登ったら、天神尾根からの道に合流した。平坦な道が続き、歩きやすいコースで、破線ルートには見えない。右手に大沢川の谷を挟んで、奥深い山の風景が見渡せる。人の姿が無くなり、静かな山歩きが愉しめる道だと思った。

しかし、440m小ピークから右に伸びる尾根を辿り、やがて現われた古びた指標は、此れから下る北尾根への不安を掻きたてた。全体に道は湿っており、木段は腐り、植物の繁茂が激しくなってきた。ジグザグに数度折り返したら、不明瞭な踏み後が分岐していて、間違えて踏み入ってしまった。下りる川岸は直ぐ其処に見えているのだが、人が歩かなくなって久しい様子であった。迷った地点に戻って、リスタートした直後、突如MNさんが、狼狽を伴う軽い叫び声を上げた。気がつくと、足元に山蛭が集まって来ていた。足場のよい処迄移動し、持っていた忌避剤を彼女のスパッツに噴射する。私も自分のスパッツを見ると、当然の如く蛭が張り付いていた。前回の悪夢が蘇るが、今回はスパッツの裏側から、忌避剤を染み込む程ふりかけており、皮膚に被害があるかどうかを確認する余裕は無いが、其れを信じて、一刻も早く此の場所を脱出するのが得策だと考えた。

Map2

私はMNさんからロードメジャーの役割を引き受け、走るようにして下り始めた。背後で、蛭が飛んでくる、とMNさんが云う。そんな莫迦なと思うが、ぴょんぴょん跳ねて靴に向かってくる、と彼女は叫ぶ。私は視力が弱いのでそんな観察はできないが、MNさんは実によく見えているようであった。ジグザグ道の途中で、やはり古びた指標が現われたが、もう構っている余裕も無く、わあとかきゃあとか、叫びにならない叫び声を発しながら、我々は脇目も振らずに、梅ノ木尾根の北面を走り続けた。

漸く、最後の折り返しを終えて、川岸が近づいてきたが、ふたりとも其の儘川に突入し、石伝いに渡渉して、弁天の森キャンプ場の敷地内に到達した。東屋もある涼しげな休憩所に、無事帰ってきたね、と謂うような穏やかな表情で、守屋益男氏が立っていた。どうやら、山腹を叫びながら下りてくる一部始終を、見られていた様子であった。木のベンチに座り、スパッツと靴下を外して、山蛭の被害を確認してから(見事なくらい無傷であった!)、今更のようにロードメジャーの数値を確認し、MNさんに北面を下りてきた距離を伝えた。

川の流れの清々しい音と、木陰の涼風を浴びながら、私は煙草に火を点けた。其れは喩えようもなく、格別に旨い煙草だった。

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丹沢」カテゴリの記事

コメント

お?世話人さんと踏査、楽しそうだ~。
僕も参加したいなあ。

七目さんにも会ってみたいし。

だけど、ほんとに蛭いるんだね~。
こわ~。

僕は光岳で食われたことあり、血が止まらず「多分、死ぬな…」と覚悟しました。
バスの運転手にドクダミで止血できるって教えてもらったけど、効果を試す機会がありません。
今後もそんな機会が無いほうがいいんだけどね。

最後はじゅうじつ感たっぷりだったようですね。
やりとげた~って気持ちが伝わってきました。

鳳凰三山レポアップガンバ!

投稿: かず | 2012年9月 8日 (土) 22時41分

丹沢東部篇の踏査は終わってしまったようですが、
たぶん御岳の改訂版とか、いろいろ補完的な踏査はあるんじゃないかなー。

私もかずさんと会えたら嬉しいです。また私信お送りします。

5月に蛭に吸われた傷口は、まだ黒ずんで染みみたいになってます。足首に4箇所。
とんでもない破壊力ですね。

光岳みたいな高山にもいるんですね~。それとも、裾野の方でしょうか・・・。
とにかく、世話人氏のアドバイスで、スパッツの裏側からまんべんなく染み込むくらい「ヒル下がりのジョニー」ってのを噴射したら、効きました!

鳳凰紀行は、この踏査後編の後で。
もうちょい先かもしれません・・・

投稿: 七目 | 2012年9月 9日 (日) 10時48分

う、うわあ。ずいぶんやられましたね。
ぎょわわわわ~。
こえ~~~~~。

光岳は裾野の方ですよ。
川沿いの軌道跡のトンネル内に膝まで土砂がたまってて、そこを歩いた時だと思われます。

ヒル下がりのジョニーって、どんだけ親父ギャグ好きなんですか~。
そりゃヒルだって引きますよ~。(笑)

投稿: かず | 2012年9月 9日 (日) 20時33分

世話人氏ブログにすごい写真ありました。http://mordred1114.blog.fc2.com/blog-date-201205-4.html

ヒル下がりのジョニーも・・・買うときなんか、
俯いちゃいましたが(笑)

かなり効きます。
というか、これでもかとぶっかけます。

でも、丹沢はやはり秋も深まってからがいいかもしれません。

光岳!うーん。南アの奥まで・・・来年は行きたいです。

投稿: 七目 | 2012年9月 9日 (日) 21時04分

ナナメさま

お久し振りです。

中編も、楽しかったです。

映画『フライングキラー』のような佳作の戦慄小説!


僕の周りにもナナメ書院のファンが急増中みたいです!


東丹沢詳細図はもうすぐ詳細が発表できる感じです。


またご連絡させて頂きます。

失礼致します。

投稿: 世話人 | 2012年9月 9日 (日) 21時56分

あ。世話人さん!
読んでいただいたんですね。感謝です。

てゆーか「フライングキラー」ときましたか!
伝説のB級クラスじゃないですか(笑)
てゆーか、小説じゃなくて事実ですってば(爆笑)

でもちょっと誇張表現しちゃったかもしれません。
MNさんは、キャーとか言ってなかったかも。
わーわー云ってたのは私だけかも・・・
でも彼女の「蛭が飛んでくる」ってのは本当です。
名台詞ですね(笑)

また踏査活動、誘ってください。
今度は蛭無しでお願いします。ホントに(笑)

悠遊趣味のかずさんも参加して呉れるみたいなので是非!

『登山詳細図東丹沢篇』待ち遠しいです。

投稿: 七目 | 2012年9月 9日 (日) 22時39分

ナナメさま

どうもです。

とにかく、次は?次は?と、つい文書を追ってしまう作品ですよね。

次回作も楽しみです!

またいろいろと宜しくお願い致します。

投稿: 世話人 | 2012年9月10日 (月) 10時18分

なんともお褒めいただき感謝です。
まー蛭ほどスペクタクルな展開はなかなか無いと思いますが(笑)

こちらこそよろしくです。

投稿: 七目 | 2012年9月10日 (月) 20時28分

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