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富士山スカイラインから宝永山

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2012/7/25

富士宮口五合目(10:30)---六合目---宝永火口---宝永山---富士宮口五合目(14:00)

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涼しい処に行ってみようか、と思い立ち、衝動的にレンタカーを利用して家族を連れて宝永山に行くことにした。デフレの所為か、中古レンタカーが安く借りることができる故であって、そうでなければ思いつかない案である。富士山スカイラインは七月下旬から八月迄恒常的に、水ヶ塚に於いてマイカー規制をするようなので、直前の平日に車を走らせた。

自衛隊の演習場を越えて裾野を登坂していくと、信州の高原に来たような雰囲気になる。窓を開けると涼風が心地よい。ところが、旧料金所を過ぎていよいよスカイラインに入り高度を上げて行くにつれて、空は覆い隠され、曇天の様相になり、快適に飛ばしていた車が、乗り合いバスによる渋滞にぶつかる頃、辺りは霧に包まれてきた。

富士登山で五合目の駐車場は常に混みあっているという情報は把握していたが、平日と謂うこともあって、軽視していた。しかし、下り車線に、隙間無く路肩に停められた車の列を見るに至って、私は少し動揺した。富士宮口五合目の駐車場入り口に着いたら、なかなか先に進めず、我々の前に並んでいた車の二台が、何度も手こずりながら、Uターンしていく。途中に僅かに隙間のあった路肩に停めようという魂胆のようであった。滅多に車の運転をしない私は、小刻みに車を操るのが億劫で、其の儘霧の五合目で、状況の推移をじっと待っていた。そうしたら呆気なく進路が開き、ゆるゆると満車の駐車場内に入り、さてどうしたものか、と思っていたら、一台の車が駐車枠から出てきたので、はい合点とばかりに、その枠に駐車した。

憧れの富士山に、いつか登ってみたいと思う気持ちは正直なところである。実際に五合目から六合目迄を歩いただけで、いつもの低山とは違う風景に眼を瞠らされた。正午に近い午前中だが、若いカップルやら子連れのグループが、宝永山荘から富士登山に向かって歩き始めていく。途中の山小屋に泊まるのだろうか、それはそうだろう、などと考えながら、なんで彼奴等が登れて俺がと謂う、理不尽な憤りを感じていた。そして、自分が富士に登頂する時は、必ず一合目から登ってやるぞ、などと、一体何に向かって悔しがっているのかよくわからないが、そんな気持ちで、宝永火口に向かって歩き始めた。

富士宮登山道の稜線が左に遠ざかるのを感じながら、平坦な、少し岩の多い道を歩いて行くと、やがて、前方に、白い煙のフィルターを通したような、黒い稜線が現われ、指導標が在る第一火口分岐に着いた。其処から、荒涼とした擂り鉢状の火口に向かって下りていく。宝永火口の標識で休憩し、今度はひたすらに砂状の道を、足を取られながら登り続ける。車でやってきて、ちょっと其処迄、と謂うような気分が、徐々に揺らいでくる。普段の山登りの概念とは掛け離れた、疲労の伴う登りだった。

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其れでも、猛烈な酷暑に辟易していた東京での日常が、彼方に消え去ってしまう程、火口の中は涼しかった。普段の価値観を放棄して、我々は歩調を合わせるように、矢鱈に休憩を取りながら、富士山の横っ腹に空いた大きな穴の中から、無常の光景を眺めていた。振り返って、火口の底を見下ろすと、大勢の団体が、一列になって、行進してくるのが見えた。その団体は皆白い服装をしているようで、どす黒い谷の底に、不気味なコントラストを表現していた。もし三途の川の光景があるとしたら、こんな風なのかな、と、ぼんやりと思った。

砂礫の道が、折り返しながら、稜線に向かって何処迄も続く。軽装の家族連れから、充分な装備をした恰好の登山者迄、いろんな人が下りて来るのと擦れ違う。ガールフレンドをサポートしながら下りて来る男が、私の目の前で、派手に転倒した。苦悶の表情を隠せない儘、其れでも体裁上直ぐに起き上がって、よろよろと歩き始めた。女の子の啞然とした表情と、折角のカラフルなウェアが砂塗れになって煤けた色になった男の足取りが、宝永火口に、よく似合っていた。

続いて、赤ん坊を抱いているのかと思うような荷物を抱えた男性が近づいてきた。至近距離で見たら、それは背負ったザックとは別に、デイパックを身体の前面に抱えているのだった。男性の背後に、手ぶらで歩いている女性が続いていた。疲れきった表情の女性は、我々とすれ違って直ぐに、路傍にへたりこんで座り、男性に向かって、もう歩けない、と謂うような意味の罵声を浴びせた。我儘だね、そうだね、別れるね、男のほうからだね、などと、中学生の長男と感想を述べ合いながら、漫然と登り続けた。そうして、漸く馬の背に辿り着いた。

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火口の底から見上げる宝永山の稜線は明瞭だったが、馬の背に立ったら、其処は幻想的なまでに真っ白い霧に覆われた世界だった。其迄のひんやりとした涼しさから、強い風が冷たい、防寒着が必要な状況になった。標高2600mを越えた吹きさらしの稜線に居るのだな、と実感できる寒さだった。視界が開けたら、どのような絶景が見渡せるのだろうかと、虚ろな感じで、霧の彼方を見て、想像するしかなかった。

霧の彼方から、御殿場口に向かって下山してくる人影が、次々と現われ、そして、ふたたび霧の中に消えていく。現実感の無い、シュールな場面のように思えた。生命の息吹と謂うような存在が希薄な、火山の焼け跡の黒い風景が白い霧に包まれて、日常的に抱いている遠近感のようなものを、奪い取られたと謂うような、不思議な感覚を味わいながら、私は立ち竦んでいた。

振り返って、宝永山の方を見ると、霧の中に、馬と謂うよりも、駱駝の瘤のようなものが、薄っすらと浮かんで見えた。我が連れ合いが、さっさと其の方向に歩いて行くのが見えて、さらに其の先に、子供たちが、黒い点のように、遠ざかっていくのが見えた。其れは、本当に消え入ってしまうかのような錯覚を呼び起こさせる光景だった。私は、我に返り、少し慌てて、その後を追うように、歩き始めた。

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