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蛇滝から薬王院、琵琶滝から東高尾山稜を越えて高尾霊園

2012/4/13

高尾駅(13:00)---上椚田橋---高尾天満宮---蛇滝口---福王稲荷大名神・水行道場---浄心門---薬王院---十一丁目茶屋---大聖不動明王・琵琶滝---清滝駅---四辻---高尾霊園---紅葉台団地---東京医大八王子医療センター(16:00)

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昵懇の仲である仕事上の先輩が心臓の病気で倒れてしまったので、見舞いに行くことになった。還暦を過ぎたとは謂え、予兆も無く発作が来たと聞き、先輩に負けず劣らず酒を飲み煙草を欠かさない自分の生活習慣にも不安を覚えてしまう。病院は計らずも高尾だと謂うから、仕事は早々に片付けて、高尾山に寄ってから訪問しようと考えた。

午後の暑いくらいの陽気の中を、高尾駅から駒木野に向かって歩き始めた。どうせならばと謂うことで、歩いたことのない蛇滝コースで薬王院を目指そうと思った。当初はバス通りを歩いていく積もりだったが、ふと思いついて、小仏川に沿って歩ける道があった筈だなと、上椚田橋に向かう。川沿いの道は両端に在るので、自然と左側の、高尾山サイドの方に足を踏み入れる。しかし、直ぐに擦れ違った小母さんが、此の先は行き止まりだから反対側に行きなさいと話しかけてきた。恐縮し謝辞を述べて、改めて上椚田橋に戻った。

桜の花も未だ十分に咲き誇る長閑な川沿いの道を歩き、対岸を見て、本当に行き止まりになるのかな、などと考える。右手に駒木野病院が近づく頃、前方に川に掛かる橋が見えてきたから、なんだ渡れるじゃあないか、と思ったが、橋は何かの会社の敷地に向かって渡っており、対岸の道はフェンスが通せんぼをしている。小母さんの云ったことは正しかったのである。疑念を抱いた自分に、謂いようの無い呵責が湧きあがって来る。

遊歩道は公園を通り抜けるとすっかり自然を満喫できる樹林の中に入っていく。途中、小高い山腹にぽつんと立っている高尾天満宮に寄り、また川に戻るが、やがて遊歩道は圏央道工事のために遮断されていて、歩行者は車道に迂回しなければならない。首都圏中央連絡自動車道は、とうとう高尾山を貫通してしまったが、蛇滝側の入り口辺りでは、尚も大掛かりな重機が暴れまわっている。

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合理性とか、コストや手間の軽減のためなら、高尾山にトンネルを掘っても構わないと謂う考え方、其れ自体が私にとっては不気味に思える。物流を高速化したら、あらゆるものが、より便利に手に入り、生活は快適になると、誰もが信じているようだ。しかし、快適さに慣れてしまって、若し其れが儘ならない事態に陥った時の枯渇の感覚と謂うものは、より快適でなかった頃より、さらに辛く圧し掛かってくるような気がしてならない。そんな沈鬱な想念を浮かべた儘、漸く蛇滝への静かな道に入り込んだ。

潤沢な流れの行ノ沢に沿って、石畳の道を登り続ける。高尾山口の喧騒を想像すると、登山客は疎らで、路傍の小さな植物にカメラを構えている人が目に付く。高尾山の北面は其のような希少植物の宝庫のようだが、知識と興味が足りない私は、何の感興も湧くことができない。駐車スペースの在る処で、左手から林道が合流してくる。高尾天満宮から山腹に明瞭なトレースを見たが、此の林道に繋がっていたのだろうかと想像する。「高尾山登山詳細図」を見ると、勿論何の記述も無いが、拡大された等高線が、高尾天満宮辺りから林道に向かって尾根が延びて居ることが窺われる。其の尾根は、寧ろ金比羅神社へと延びて居るようにも見える。

蛇滝コースは未だ舗装路が続き、山腹が迫ってきたなと思ったら建物が鎮座していて、其れが水行道場の在る福王稲荷大名神だった。敷地内との境界は厳重に遮断されており、誰も居ないかのように静だが、其処からいよいよ山道となって蛇行する段になって、頭上から人工的な音が聞こえてきた。其れはケーブルカーの高尾山駅から聞こえてくる発車ベルで、私は謂い様の無い虚脱感に襲われていった。

丹念にジグザグ道を辿っている途中で、携帯電話が鳴り出した。厭な予感がして戦慄を覚えるが、其れは今日訪問する病院の件とは無関係の、仕事に係わる着信だったので安堵した。私はトラバース道の鋭角の箇所に座りこんで、ごく普通に、仕事上の通話を始めた。山に登っていると謂う、心の開放感を何処かに置き忘れてきてしまったかのように、私は中途半端な気分になった。

斜面からの眺望が開けて、北高尾の山稜と、眼下に小さく中央道が横切るのを見渡した。静かな山道だが、既に山の上の、観光客たちのざわめきが薄々と感じられる。程なくしてケーブル駅周辺の建造物が見えてきた処で、二号路が分岐している。私は迷わず右折して行く。高尾山のメインルートの直ぐ裏通りを、隠れるようにして歩いているような気分になった。浄心門に出ると、小学生の遠足にぶつかり難渋したが、男坂の階段を登ったら、存外に人は少なかった。薬王院の飯縄大権現に向かって二礼二拍手一礼をして、病人の快復を祈った。御守を買おうか、などとも考えたが、其れは何か虚礼的なことのように感じたから、私は踵を返して、来た道を十一丁目の茶屋迄急いだ。其処からは、琵琶滝へとショートカットして行く。麓へと急ぐ為であったが、期せずして、蛇滝から登って琵琶滝に降りるという趣の深いルートになったから、私は少し、明るい気持ちになって山道を愉しむことができた。

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清滝駅から、高尾山口駅ではなく、桜の花がひらひらと散り始めている商店街を歩く。峠を越えて霊園に下り、市街地迄歩いて行くために、今度は東高尾山稜の四辻を目指して登って行く。住宅の脇の細い道に入り、黙々と歩き続けていたら、中高年の団体が続々と下りてきて驚いた。二十人以上も居るので、擦れ違うのに気を遣う。先頭と最後尾に、案内人と思しき男性が居て、ツーリストたちは全て女性と謂うか、おばちゃんなのだが、皆愛想よく挨拶して呉れるから、其れは其れで難渋した。最後尾の男性に挨拶したら、無愛想な顔で睨まれた。邪魔者が現われて不愉快になったのだろうか。何れにしても、不愉快そうな人を見るのは、愉快なことではない。私は、傾斜を駆け上がるようにして、四辻に辿り着いた。

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山稜を横断して下りる道は初めてだが、視界は直ぐに開かれた。山腹の殆どが伐採されていて、作業員たちが黙々と働いている。眼下には高尾霊園の墓地が夥しく広がっている。桜の木が静かに点在して、明るい空の下なのに、寂寞とした光景だった。霊園に下りると謂うことは、最初から決めていた筈なのに、其れを目前にして初めて、病院に見舞いに行く途上であることに気づき、動揺してしまった。重苦しい気持ちになって、禿山の木段を俯き加減になって下りて行く。雑木林を潜って下山した。其処は墓地の敷地内だった。

暗然としながら、墓石の間を通り歩いて行く。そして、何だか違和感を覚えた。墓石が妙に小さくて、その刻印が、安らかに眠れ、とか、思い出をありがとう、と云うようなメッセージになっていて、凡そ墓らしくない。数秒間、頭の中が疑問符だらけになったが、やがて其れ等が人間用では無いことに気づいた。敷地を出たら、ペット霊園の看板が掛かっていた。愛玩動物の霊には失礼だが、私は、なあんだ、と呟いた。そして、訳もなく、気分が軽くなった。

広大な霊園を抜け出て、どうやって目の前の丘陵を越えて行こうかと迷った。午後の住宅街はひっそりとしていて、人の気配が無い。最初の小さい橋を右に渡り、凡その見当で丘を登って行った。途中で、庭の掃除をしていた青年に、八王子医療センターに行く道を尋ねた。見るからにヤンキー、と謂う風情のその青年は意外にも丁寧な口調で、道を教えて呉れた。謝辞を伝えて立ち去ろうとしたら、心配そうな顔で、本当に歩いて行くんですか、と云った。

私は、我が意を得たり、と謂うような気持ちになって、小さく頷いた。

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