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南高尾山稜・小仏城山・北高尾山稜(前編)

2011/8/7

高尾山口駅(9:00)---四辻---草戸山---三沢峠---西山峠---大洞山---大垂水峠---城山---小仏峠---影信山捲道---小下沢---狐塚峠---高ドッケ---杉沢ノ頭---富士見台---地蔵ピーク---駒木野---高尾駅(16:40)

静かな山歩きをしたいと思っていても休日の高尾山では埒が明かない。其れでも、あまりにも奥多摩方面ばかり訪れているから、今日は高尾方面に行きたい。私は、目覚めた時に、なんだか気力が漲っているのを感じた。前日に登った川苔山は随分歩き甲斐があったが、其の疲れが功を奏してよく眠れて、寧ろ明くる今朝の方が、何処迄も歩いて行きたい、と謂うような気分である。休日の高尾のジレンマと謂う問題は、凡そ内心で解決していることであった。真夏の蒸し暑さも恐れず、草生した南高尾山稜を巡り、中央には眼もくれず、城山、小仏峠、影信山を経て小下沢キャンプ場跡地に降りて、其れでもまだ帰途には着かず、北高尾山稜の途上である狐塚峠に登り、高尾駅に至ると謂う、高尾山外周の計画である。

色とりどりのコスチュームで賑わうハイキング客たちが集う高尾山口駅から、私は銜え煙草で其の雑踏から離れる。既に油蝉その他の鳴き声でけたたましい灼熱の草戸山方面の狭い登山口から、繁茂した草を掻き分けて、黙々と登り始める。四辻に登りきってひと息つこうとするが、薄暗い小さな峠は藪蚊の溜り場で、シャツ、短パン、サポートタイツ、そしてサロモンの靴迄全て黒い恰好の私は、瞬く間に其等に纏わりつかれる。慌てて逃げ出すように、草戸峠に向かって走るようにして向かう。既に額の上部を刺されたようで、痒い。

昨晩は都心に居ても夜空の遠くから、夥しく稲光が明滅していた。山域では雷雨が襲ったのだろうか、鬱蒼とした山道は、なんとなく湿った雰囲気を感じる。緩いアップダウンを、軽快に登り、其して緩い下りでは走り、急な下りは慎重に、テンポよく進む。殆ど休まずに梅ノ木平分岐を過ぎて少し登ったら、高尾山の南面を見上げる風景が開けた。草戸峠である。身体は軽いが流れ出る汗が猛烈なので、此処で小休止したいが、壮年の男性が数名、のんびりと語り合って居る。空いているベンチに腰掛けるが、内心では無闇な人嫌いになっている私は落ち着かず、お茶を飲んだらさっさと出発する。先が長いと謂う意識が強いのか、私の足取りは速い。小走りになって木段を機敏に登り、瞬く間に草戸山に着いた。じりじりと陽に照らされた山頂には誰も居ない。くだんの草戸峠で憩う老人たちを思い浮かべた。流石に知ってやがるな、と思う。

休んだばかりなので、直ぐ出発する。三沢峠への途上で、整備された休憩場所があった筈なので、其処迄進もうと思う。直ぐに階段の下りがあって、暫く進むと今度は長い木段の登りで、指標には「ふれあい休憩所まで**分」とあるのを見て、途端に嫌悪感を催す。休憩はしたいけど、どちらから、とか、どちらまで?と謂うような「ふれあい」は極力避けたいものだと思う。其れは私に在る内面の問題であって、誰にも係わり合いのないことだから、そもそも問題は現実には無い。だから私の抱く嫌悪感は「ふれあい休憩所」と謂う名前だけである。そんな不埒さに対する皮肉か、木段を登ってから、また暫く進んで、ふたたび長い段の登りが現われる。脚は何とも無いが、汗が酷い。漸く登りきったら問題の「ふれあい休憩所」だったが、こっちからお断りだよ、と云うかのように、其処には誰も居なかった。私は安堵してお茶を飲み、煙草を燻らせる。

木立の向こうに見え隠れする城山湖を感じながら下っていくと間もなく神奈川県側からの舗装路が合流する三叉路で、其の儘右手の山道に入る。草戸山から影信山迄、都県境に沿ってひたすら歩いて行くのだなと思う。榎窪山は鬱蒼としているが高尾山への眺望が開けている良景なので、しばし休憩する。三沢峠を無言で通過し、本格的に延々と続く南高尾山稜を行く。暑さによる疲労感は徐々に増してきている。いつも、小さなピークと捲道があれば敢えて登っていくスタイルの積もりだが、今日はできるだけ捲いて行こうと思っている。泰光寺山の登りは如何にもきつそうで好きなのだが、此れも捲く。都合のよい思考で、歩いたことのない捲道を歩くのも悪くないと自分に云う。

西山峠を過ぎて、相模川と三ヶ木の集落が箱庭のように美しい展望の場所を目指す。其処で休みたいと思い到達したが、景色は相変わらず良いとして、またしても藪蚊が多い。黒いサポートタイツの足元にドッと押し寄せるようにたかる蚊を払う。特殊な化繊のタイツの上からは、蚊も容易に吸血できないようで、なんとか難を逃れ、後ろ髪を引かれるが、直ぐに出発する。単調な山道を進む。泰光寺山を過ぎた頃から、お誂え向きの道が続くので、私は走り続けた。中沢山の直下で大きく右に進路が変わる。其の休憩場所で少し休む。目前の小高い丘の上が中沢山だが、今回は訪問を割愛させて貰う。中沢峠から二又に分かれる処も、捲道を選ぶ。陽当たりが良くなり、草が勢いよく繁茂してきたらコンピラ山で、如何にも暑そうな休憩場所で、男女が食事をしていた。

此処迄勢いよく駆け抜けてきて、何人かの人を抜き去ってきたが、徐々に疲労が溜まってきた。大洞山手前の登りで、ひとり抜けそうだったが、途中で立ち止まり、呼吸を整える。登りきると、大垂水峠方面からやってくる人が徐々に目立ち始めてきた。休みたかったが直ぐに通り過ぎる。樹林が薄くなり、陽当たりが良くなると道は藪に覆われていく。そんな道の向こうからちらほらと登ってくる人々と擦れ違う。皆一様に苦しそうな表情だ。私は大汗を掻きながら黙々と歩くだけで、喩えばサウナに行って汗を掻くよりもトレーニングも兼ねて汗を流して、却って麦酒が旨いといったくらいの意識だ。しかし今登って来るおばさんのグループなどは、いつものお喋りは封印され、不機嫌そうに登って来るから、一体何で此の暑い最中に此処へ、という疑念も湧いてくるが、無論余計なお世話である。

徐々に聞こえてくるのは単車の鹿爪らしい騒音で、間もなく大垂水峠だと謂うことが判る。国道20号を跨ぐ歩道橋を渡ると、車の音が灼熱地獄を加速させるかのように思える。しかし負けないくらいに水量の多そうな沢の音も聞こえてきた。一旦車道脇に下りて城山への登山口迄歩くが、其の向こうにドライブインらしき建物が見える。私は喉がカラカラで、自販機があるならば厭わず歩いて行こうと思うが、眺めてもそれらしき物が見つけられない。恐らく何処かにはあるのであろうが、直ぐ其処迄の距離でもないので、仕方なく城山への入り口に分け入る。階段を登って、少し歩いたら、轟々と音を立てて流れる沢が近づいてきた。そのほとりで、私は手を洗い、そして顔を洗うつもりが、あまりの気持ちよさに、頭から水を振り掛ける。やはり昨夜は雨が相当降ったのだろう。豪快に流れる沢の冷たい水の悦楽的な感触から、私はなかなか離れることができなかった。

明るい薄曇の空が、小仏城山への登りにかかると一掃されて、眩しいくらいの青空に変わった。沢から少し急な勾配を経て指導票が現われたところでまた休憩する。最上のリフレッシュが、やや気持ちを弛緩させてしまったようだ。陽当たりのよい草地の中を真直ぐに道が続く。トレラン然とした人々と擦れ違うことが多くなった。植林の中の涼しい歩きを経て、少し急な登りをこなし、また緩やかな道。灼熱の空の下を黙々と歩き、いつの間にか賑やかな人通りの道に合流し、小仏城山に到着した。

茶屋の周囲の休憩場所は殆ど塞がっている。小仏城山に於いては、相模湖側の茶屋が従業員の数や商品の豊富さで隆盛を誇っていて、其の裏側である高尾山側には別の茶屋が張り付くようにして営業している。特徴のある顔をした小柄なおじさんが孤軍奮闘しているわけだが、特にそれに肩入れしているというわけではなく、比較的に日蔭のベンチが空いているから、其処に腰を下ろした。周囲では殆どのグループが麦酒を飲んで愉しそうに食事をしている。私は暑さと疲労で食欲は湧いてこないが、喉がこの上なく渇いている。気づいたら麦酒への誘惑が私の四肢の、爪先に至る迄をも支配しようとしていた。暫く沈思黙考してから、邪念を振り払って顔を上げたら茶屋のおじさんと眼が合った。私は、ことさら面白くない、と謂うような風情で、コーラを買い求めた。甘くて冷たい炭酸飲料は、其れだけで食事代わりのように、カロリーを摂取しているな、と実感できる。そんな自分に対する状況解説を他でもない自分に言い聞かせながら、私はコーラをごくごくと飲み干した。

ひと息ついた儘、茫然と座って煙草を燻らせていたら、中年男性が茶屋に駆け込み、麦酒とかき氷!と大声で注文した。茶屋のおじさんは、かき氷は無いよ、と何事も無い感じで云う。中年男は虚を突かれたように言葉を失い、遠くのベンチに座っている仲間の中年女性に、おういかき氷無いんだって、と叫ぶ。反対側の主流派茶屋で、かき氷を販売している筈だが、反主流派のおじさんは、そんなアドバイスを授ける程曖昧な商売人ではないようで、普通に其のやりとりを黙殺していた。

日曜日の正午過ぎの小仏城山は、夥しい人たちの喧騒で満たされていた。空はますます青くて、じりじりとした暑さが音を立てて増幅されていくような感じだった。麦酒を我慢した私は、漸く此の高尾山外周の後半に向けて、気持ちを立て直せそうだった。群集から逃れるようにして、私は小仏峠方面に歩き始めた。

別記

2011/8/6

古里駅(7:40)---赤杭山---川苔山---舟井戸---大根山ノ神---熊野神社---鳩ノ巣駅(12:50)

「DoseRAE2」は貸与中の為、未計測。

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コメント

藪蚊との格闘、お疲れさんです。
じとっとした夏の低山が目に浮かぶようですよ。
夏の低山は苦行ですよね。

小仏城山茶屋での心の格闘もおもしろかったです。
裏にはおじさんがいるのかあ。知りませんでしたよ。
麦酒を飲むと、満足に歩けなくなるから、コーラの選択は正解だったんじゃないかな。
下りてからいくらでも飲めるし~。

投稿: かず | 2011年10月13日 (木) 22時36分

あああ。コメント戴いてるのに気づきませんでした。ごめんなさい。
ニフティがメールサービスをやめちゃったので・・・と言い訳です。
小仏城山の反主流派茶屋のおじさんはホントに気配が薄くて、しかも風貌が独特で、性格俳優とかになれそうな感じの人です。
夏の低山は辛いですが、その苦行の果ての開放感がなんともいえないから好きです。でも藪は辛そう。蜘蛛の巣がかなり苦手なもんんで・・・。

投稿: 七目 | 2011年10月27日 (木) 19時32分

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