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梁川駅から扇山(前編)


2010/02/11


梁川駅(8:30)---犬目---扇山---梨の木平---鳥沢駅(14:30)


雨に濡れて発車時刻を待っている河口湖行きの電車の車内を、先頭車輌から順番に覗きながらプラットホームを歩いていた。

祝日の朝の高尾駅は、悪天候の所為か山行き客の姿が殆ど見当たらない。出発間近の車内も閑散としていて、Mと、久しぶりに参加するNが待っている筈だが見当たらない。

二輌目、三輌目を過ぎて探すのに疲れてきたなと思ったら、遠くで両手を大きく振っている男が見える。あまりのオーバーアクションにつられ周囲の女子学生たちまで振り返り私の方を見ている。慌てて走りながらNに、わかったから止めろというような身振りで応えるが、彼は察してくれずに相変わらず仁王立ちで両手を挙げて振っている。私はうつむき加減で最後尾の車輌へと、走っていった。


気象予報では曇りのち雨から雪と出ていたが、昨夜から冷たい雨が降り出していた。Nの参加もあって、日程を変更するにはそれぞれの都合を修正しなければならず、それも面倒だ。決行することにしたが、近場の山を軽く往復する程度のコースにしようということで、扇山に決まった。


Mは鳥沢駅からの往復と決め込んでしまっている風だったから、私は未だ歩いたことがない、梁川駅から大田峠を経て犬目に降りてから扇山へと登り、梨の木平に下りて帰ってくるというルートを提案した。前回の角研山に至るまでの彷徨もあって、知らない道を歩くことにMが難色を示すのではと思ったが、特に異論は無いようだった。


公園の休憩所みたいに小さな梁川駅で、霧のような雨を浴びながら地図を確認して出発した。Mは以前、扇山から四方津駅迄を歩いたことがあるというので、まったく緊張感が無い様子だが、私は前回の失策もあり、「山と高原地図27『高尾・陣馬』2009」の、梁川駅の箇所を見やすいように折りたたんで、首っ引きで歩き始めた。


甲州街道から歩道橋で中央本線を跨ぎ、舗装された道を行く。左手に線路がトンネルに吸い込まれていくのを見ながら、右に旋回するように山間へと続く道を行く。MとNは会話しながら先に行ってしまうが、私は地図と周囲の霧に煙った山を見合わせながらゆっくりと及び腰で進んで行く。地図に記されている「小さな道標」が近づいてくる頃だが、発見することが出来ないまま、舗装路は勾配を上げていくようになった。


不安に陥りそうになった頃、背後からやってきた軽自動車が停車した。窓が開き、地元の人らしい中年女性が、何処へ行くのか、と訊いてきた。大田峠ですと言うと、それならもう通り越してしまった。戻って、ガードレールのある処に木の階段があると教えてくれた。よく間違えて其の儘歩いている人が多いから、と言った。登っていくと畑の脇に道があり、少し藪になっているから気をつけるようにと教えを戴き、車は去って行った。


危うく途方に暮れるところに出会った僥倖に感謝しつつも、相変わらずのケアレスミスを繰り返す自分に呆れながら、来た道を戻る。しかるにMは、其の階段は気付いたがお前が地図を見ながら歩いているので気に留めなかったと言うから、私は内心憤然とした。

Mは無駄足が面倒だというような気配を見せて、この儘真っ直ぐ行っても山向こうの道に着くんじゃないかなどと言うので、つい先週道に迷って痛い目に遭ったのばかりなのに何故懲りていないかこの男は、というようなことをNに言った。

Nはどう答えていいのか、といった風情で苦笑した。


成る程ガードレールの或るカーブの道端に木片が積んであり、狭い幅ながらも木の階段が設えてあった。何で俺だけ気付かなかったのだろうという気持ちで消沈したせいか、自然に先頭がM、そしてダブルストックのNが続き、私は相変わらず懐にある地図に手を添えながら、やや遅れて登り始めた。

雨に濡れて湿った土に滑らないように、黙々と登り、間もなく雑木林が右に広がる地点に着いて小休止をする。行く手には道が二股に分かれていた。どちらも山肌に沿って登って行くような道に見える。右か、左か。我々三人に分かる筈もなかった。


何の根拠も無く私は、左じゃないか、とMに言った。件の中年女性が言った、少し藪になっている、という部分が印象に残っていた。左の道は遠くの方で、やや植物が侵食してきているような様子が見て取れた。我々は左に進路を取った。


結果的には大外れで、次第に道は竹薮になり、そこに枯れ木が倒れかかって覆い被さるような箇所も出てきた。雨量は控えめだったが、藪を掻き分けて行くと、雨露が全身を濡らす。最もキャリアを誇るMは引率する責任を感じてか、次第に深くなる藪に躊躇しながらも進み続けた。途中、右手の上の方に、件の別れ道のもう一方があるのではという憶測から、木立ちの隙間から崖を登って行く素振りも見せたが、やはり危険な行為であることは明白だった。


私とMは目を見合わせ、とうとう来た道を戻ることを決断した。自然と、今度は私が先頭になる。MとNの背を見ながら後をついて行った時は気楽なものだったが、いざ先頭に立ってみると、今歩いてきた道はまるで道ではなかった。蔓に脚を取られて、もがいたりしながらようやく藪から脱出し、二叉路に戻った。


気を取り直して右側の道を登る。登りきるかという手前で正面はふたたび藪の状態になるが、右側に開けた山肌に転進する。僅かながら踏み跡らしいものが伺えるが、徐々にそれも消えて、歩き難くなってきた。漸く登って行く道に当たり、ひとつのピークに達した。左右に伸びている道の途中に辿り着いたようだが、一体何処に居るのかわからない。

Nが携帯電話機のGPSで現在位置を確認しようとするが、大雑把なもので、市町村界の上に居ることぐらいしか判然としない。北の方に中央高速が通っているのはコンパスがあればわかる。右か、左か。まったく前回の時と同様、途方に暮れてしまった。


正面の北方向の林の中に、赤いテープの印しがあることに気付いた。右でも左でもなく、正面だ。敢えて道から外れて真っ直ぐ行くか、なんとなくの判断でしかないが、やや北東の方に緩やかに延びている右への道か。三人も居るのに決断ができない。結局、右側に進みつつ、徐々に左へ道を外していくという、折衷案というか、曖昧な行動を展開することになった。


それでも暫くは枯木を掻き分けながら、順調に進んだ。そして左前方に、中央高速の白い防音壁が見えてきた。人里も近づいてきている雰囲気だった。安堵した直後に、Mが停止して動かなくなった。残雪の白い山肌が現われた。其処からは道ではなく崖になっていた。迷った挙句、気がつけば崖を登っていたというのが前回の行状だったが、下りはさすがに道が果てたという感じで、崖を降りようなどという判断は浮かばない。

右側に稜線が連なっていて、その手前は枯れた沢だった。Mは、もうそこしかないという感じで沢へと下って行った。Nが続いた。


最後尾に居ると、意外と客観的な視点になれるもので、私は下の方に遠ざかっていくMの行く手の先を辿って眺め、やはり沢が急傾斜になっていくような雰囲気が察せられて、少し止まって様子を見ていた。姿を消してから数十秒で、駄目だあ、と力無く言いながらMが引き返してきた。Nは途中迄で様子を見ていた模様で、Mほどの悲痛な様子ではない。


ひっきょうまたもや私が先頭になって打開策を黙考することになるが、右に枯れ沢、左に崖では、もう正面に立ちはだかる藪を突破するしかない。思えば初っ端の竹薮に比べれば何ということはない様子なので、気持ちに勢いをつけて、ストックで枯枝を払いながら進んでいくと、徐々に勾配を下げて、民家の裏庭が見える処迄辿り着いた。


ここでいよいよ右の沢に下りなければ道がないので、今では大分距離が縮んできた沢へ、蔓に掴まりながら一気に降り立った。他所の庭へ、雑木を掻き分け入り込んで振り向いたら、Nも間髪入れずに付いて来ていたが、Mはまだ崖を降りるのに手間取っていた。私とNは、髪をバラバラにしながら必死の形相で枯れ木を掻き分けて来るMを見守るしかなかった。


民家の裏から忍び足で回り込み、当然のことながら表に出たら舗装道だった。そして、其の家の隣に細い道が山へと伸びていて、道標には「梁川駅」と書いてあった。正規ルートの直ぐ傍で彷徨していたと知って、全員が深く溜息をついた。


前日にNから、久しぶりに山に登るが、どんなコースなのか、と聞かれ、前回の顛末を説明しつつ、今回は近場で済ますよ、ゆるコースだね、などと冗句混じりで答えたものだが、現状としては梁川駅を出発して一時間半も経っていて、予定の行程としてはほんの序の口の地点に居る。


太田の集落は冷たい雨が降り続け、道は所々凍っていて、人も車も通る気配が無い。改めてこれから山登りを始めるのかと思うとさすがに気持ちが萎えてきそうだ。しかし、こんな中途半端な処で逡巡していても逃げ場所は何処にも無い。


三人は無言の儘、中央道の架橋に向かって、歩き続けるしかなかった。


補記


駅から殆ど車道を歩くコースだから手軽なものだろうと梁川駅から歩いたのに、雨の中で完全に迷走してしまいました。

後日、よもやと思い、ふたたび「悠遊趣味」の画像付き山日記を調べてみたら、ありました…。

「斧窪御前山」の項で、大田峠への登山口は勿論、二股の道を右へというところまで写真が…。失敗は成功へのスパイス、というコメントまで管理人さんから戴きましたが、まさかこんなに早く失敗が訪れるとは…と、改めて自分に驚いています。

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