アイゼンを外して二重の扉を経て、黒百合ヒュッテの屋内に入ると、眼鏡が瞬時に曇って何も見えなくなった。土間の左手に在る休憩場所の小上がりは、隙間無く人々が蠢いている。ストーブの暖気と人いきれで、小屋の中は熱気に溢れていた。眼鏡を拭き直して前方を確認し、難渋しながら靴を脱いで、二階に上がると、薄っぺらい布団が敷き詰められている大広間に出た。 黒百合ヒュッテは、夕刻になってから宿泊客に布団の割り当てが行なわれるので、其れ迄は二階に上がることが出来ないと云う規則になっているが、我々は大広間の奥にある個室に入って、荷を下ろした。布団部屋のような狭い空間に、七人が泊まることになるが、此れで心おきなく仲間だ...
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